※学パロ





この学校のルールでは、何やら部活動というものに必ず入らなくてはいけないらしい。何故それを強要されなければならないかの理由は何一つとして分からなかったけど、ここのルールなのだから仕方がない。
小さな頃から絵を描く事が好きだった。得意か不得意か、上手いか下手かは別にして。そういった単純な理由で、ボクは部活動の中の一つの美術部を選んだ。
学校の中ではメジャーではあるけど、いまいちパッとしない地味なイメージの部。そんな先入観を何かの本で植えつけられていたボクは、その部活を選んだにも関わらず対して興味を持っていなかった。必ず入らなければいけないから仕方なく選んだ、自分の趣味とたまたま合致したという訳で決めた。
人付き合いは苦手な方だし、生きて過ごす上で学んだ当たり障りのない笑顔で三年間を過ごそう。

美術部が活動するお決まりの美術室の引き戸の前で、作り笑いを何度か練習したあと、ボクはその把手に手を掛けた。



でも、そこには、ボクのお得意の作り笑いをスッと掻き消してしまう様な、まるで別の世界の空間があったんだ。


イーゼルに立てられたキャンバスに向けた赤い目は眠たげで、でもそこから決して逸らさない。細かく動く右腕は西日に照らされて、色の跳んだ白と橙のコントラストが、とてもきれいだった。
動きを止めない右手の先は、デッサンでもしているのだろうか。ここからの角度じゃ丁度よく見えない。すると、その手の動きが止まり、一つ考える様に顎に持っていくと、漸く扉を開けたボクの存在に気が付いた様だ。


「…なんだ、お前。あ、例の新入部員か」


目が合った瞬間、ビリッときた。
この感覚が何なのか今のボクには分からない。それでも導かれるみたいにその人に歩み、近寄って、ドクドク鳴る心臓なんか知らずに、無意識で口を開いた。


「名前を、教えて下さい」

「あ?…ああ、オレは赤砂、この部の一応部長だ。よろしくな、んと…何て読むんだそれ」

「日の根と書いてヒネと読みます、ですが馴れ馴れしく下の名前のサイと読んで貰って結構ですよ。ちなみに部長の下のお名前は?」

「……サソリ」

「よろしくお願いします、サソリ部長」


自慢じゃないけど、ボクは生まれてこの方一度も友達というものが出来た事がない。
面倒くさいとも思っていたし、周りじゃ胡散くさい笑顔の裏の性格で煙たがられたから。別にそれは苦じゃなかった、絵を描いていればそれでよかったんだ。
でも…なんだろう。この人は不思議だ。一目見ただけで引き寄せられた。これが、友達になりたいという気持ちなんだろうか。いや…よく分からないけど、友達以上の何かだろうか…この感情は。
一瞬だけボクの作り笑いの鉄仮面が取れそうになっちゃったけど、良い印象を持ってもらうならこの顔のままの方がいいよね。


「しかしお前も物好きだな、こんなマイナーな部に入ってくるなんて」

「…ん?美術部は学校の中でもメジャーな部活動って本に書いてあったはずですけど」

「………、びじゅつぶ?」

「はい」

「違う違う、見間違いでもしたのか、ここは“芸術部”だぜ」

「そうなんですか」

「美術部はこの学校にねぇし、そもそも文化部が許されてるのはこの部だけだ。筋肉バカになりたくないヤツらの集まりで出来たのが芸術部。…まあ規約スレスレなんだけどよ」
「ダアァーーーーッ!!!」

「っ?」

「ちげェちげェサソリちゃん!!いつも言ってんだろここはァ…“ジャシン様崇拝同好会”だってよォ!そしてこのオレが会長の飛段だ、よろしくなァニコニコ新人クンよォ」


なんかヘンなヒトがきた。


「うっせーうっせーバーカぶぁーか!ここは芸術部だバカ飛段!テキトーな事吐かして偉そうにすんな、うん!」

「ああもーうっせェなデイダラちゃんはァ!いずれジャシン様にひれ伏すまでに心酔させてやるからなー、そんな口叩いて後で後悔すんなよ」

「なんねーし!…おいそこの一年、見た目はいかにも真面目そうだが、この部でやってけるとは思えねぇな、うん。本当に芸術部に入るつもりか?」

「ジャシン様崇拝同好会だ!」

「うっせー、言っとくがそれもう部活じゃねぇからな!」


確かにこの人達の見た目、校則違反の長髪に髪染め、素行の悪そうな態度。サソリ部長はまともそうだけど、同じく髪を染めている。
この学校唯一の文化部だけど、見学に来てこの怖そうな先輩方を見て諦めた人達は結構多そうだ。ボクはそんなに怖いとは思わないな、絡みにくそうだとは思うけどね。
堅実な学校生活を送るのであれば、他の部活動を選んだ方が賢明だと思う。それでも、ちらりとキャンバスに向かう人に目線を流してボクは口を開いた。


「はい、勿論入部します。だって、ボクサソリ部長の事を気に入ってしまいましたから」

「は?」
「はァ?」

「え…、…オレ?」

「オイオイおいおい!コイツ入部して早々サソリに惚れてるぞ!?なんだよホモじゃねェかよォ!」

「男で先公の角都にストーキングしてるお前が言える立場じゃねーぞそれ、うん。…つーか、何旦那の事もう名前呼ばわりしてんだよテメー!しかも気に入っただァ?ふざけてんのか、ああ!?」

「いいえ、一切ふざけてなんていませんよ。ただ、この世に一目惚れなんてあるんだなってボクも吃驚してしまって」

「この…一年のくせに生意気言いやがって…」

「何ですか、もしかして先輩もサソリ部長が好きなんですか?」

「…!?バッ…オイラは別に、そんな事っ…!」

「サソリ部長は何を描かれているんですか?」

「テメー質問しといて無視すんな!」

「ん、そこにある石膏のデッサン画だ」


真面目に部活動に励んでいるサソリ部長。後ろの頭の悪い二人と相まって、凄くまともに見える。
何故部活の名前が美術部じゃなく芸術部なのかは訊いてみたい疑問だけど、やっている事は一般的な美術部と然して変わらないから、そんなに気にする事でもない。
石膏はよく目にする有名な偉人の像。髭の部分の細やかな凸凹と陰影の表現が難しそうだ。どんな風にキャンバスに描かれているのかな…。


「普通に描くだけじゃ面白くねぇから、どれだけオレ好みに表現出来るかアレンジ加えて描いてんだ。どうだ…なかなかの作品だろ?」


うん、サソリ部長もなかなかのヘンな人だった。


「あ、お前今心ん中で引いたな」

「そうですね、でもボクの価値観では理解出来ない様な、そんな領域にいるんだなってボクなりに解釈してみました」

「お前って…思った事素直に口に出すんだな。結構面白いヤツだな、サイ」

「ちょっ…納得いかねー!何でもうコイツの事認めてんだよ旦那!」

「お前はオレの作る作品全てに文句垂れるだろ。芸術理論が反対なのか知らねぇが、否定してくるヤツよかサイみたいな感想の方が良いに決まってる」

「む、ぐぬぬ…」


あ、悔しそうだ。


「部長にフラレましたね、先輩。ボクが部長の事とっちゃいますよ?いいんですね?」

「ウッセー!!好きじゃねーって言ってんだろ!」

「入部したばっかのヤツに振り回されてんなァデイダラちゃん。どうだァ、ジャシン様は恋愛成就も精通してんだぜ、オレと一緒に祈らねェ?」

「角都にフラレまくってるヤツの言葉なんか信じねーから、うん」


接してみた感じ何とか振り切れそうだし、ここでなら三年間を上手く過ごせそうだ。
もしかしたら、作り笑いをする必要もないのかもね。まだまだ侮れない人達だから、もう少しはこの顔で貫いていこうかな。
そうだ、確か人と直ぐに仲良くなる方法の本をパラ読みした時、仲良くなる為には先ずあだ名を付けると良いって書いてあったのを見た気がする。
年上の先輩達だけど、いかにも頭がなさそうで建前で先輩って呼んでるだけだから、親しみも込めてあだ名で呼びたいかな。


「デイダラ先輩」

「…なんだよ」

「先輩も芸術部の活動はしているんですか?」

「まあな、オイラは専ら粘土専門だ。そこに並んでるヤツがオイラの作品だ、うん。言っとくが、パクったら承知しねーかんな」

「飛段先輩は何もしないんですか?」

「しなかったらサソリちゃんにどやされるからなァー、一応宗教やオカルト的な画は描けるからたまーに描いてんぜェ。あ、絵はそこのヤツな」

「たまにじゃなく、一日一枚は描けって言ってんだろうが」


二人とも特徴的な作品を作っているな。うん、大分イメージが固まってきた。


「皆さん」

「!」

「改めましてですけど、本日からこの芸術部に入部しました、日根サイと言います。今後とも部の一員としてよろしくお願いします。サソリ部長…

そして、ひねくれ短気片思い無様先輩と、変態宗教ストーカーホモ野郎先輩」



「…………、……飛段」

「…テメェはオレらを怒らせたァァァ!!」


入部初日。ボクは入部届けと左頬に、赤いハンコを大きく押して貰った。





(おまけ)

【“芸術部”現所属メンバー一覧】

□サソリ
芸術部部長。芸術部を設立した人。
この学校には運動部しかなかったので、体を動かすなんて冗談じゃねぇと新入生にして早々一つの部活動を作り上げた。学校の規約を把握しあらゆるルールを掻い潜った、努力の方向を若干間違えている秀才。頭ってのはこういう時に使うもんだと豪語してる。学年上位に入る頭の良さだが、常軌を逸している行動や思想にクラスからは敬遠されがち。触らぬ神に祟りなし。
以下のメンバーを自ら勧誘し、まとまりがないながらも部活動は真面目に行っている模様。部活メンバー下限四人を集めて満足なので、以後勧誘はしていない。勿論、面倒くさいから。
真面目に行っているといっても、彼の造り上げる造形は理解が難しく、個性の強いメンバーからもドン引きされる程。本人は至ってマジである。

□デイダラ
芸術部部員第一号。サソリと同学年で同クラス。
思春期真っ盛りで何にでもぶつかりたくなる性分。周りが周りだけにストレスがよく溜まる意外な苦労人でもある。
自分も一応は造形に長けていると自負してるので、誘われるがまま芸術部に入る。勧誘された理由は、いかにも不良っぽかったから。こういう頭の悪そうなヤツの方が教師の目を容易く逃れられるからだと後に部長は語る。全く以って認められない自分の才に苛立ち、サソリの芸術は絶対に認めようとはしない。実のところ本当は認められたい。誰よりも何よりもサソリに。そういう敬意も込めて、旦那なんて呼んじゃっている辺り憎めない男児である。
サイにサソリへの気持ちを探られたが、憧れ止まりなのか本気なのか、今の所定かではない。でも本編でポロッと零してる辺りマジなのかもしれない。

□飛段
部員第二号。サソリ達と同学年。
ほぼデイダラと同時期に芸術部に入った。学生にして、ジャシン教という名前だけで大体想像がつくアブない宗教の信者。といっても犯罪には手を染めていないので、ヤンキーの様な挑発的な態度を除けば普通にいい子。主に顧問の角都のお蔭。
部活なんて興味の端も感じてなかったが、学校のルール上仕方なくサソリとデイダラに促されるまま入る。勧誘理由は、デイダラと同じく。そこでたまたま芸術部の顧問になった教師の角都に何故か好意を抱き、部活動そっちのけで角都を誘惑する毎日に勤しんでいる。
でもちゃんと活動をしないと鬼部長に怒鳴られたり殴られたりするので、髑髏とか呪術的な象徴画を描いたりして一応作品を残している。これがなかなかマジに上手かったりする。

□イタチ
部員第三号。サソリ達と同学年。
本編に出てきてはいないが、一応芸術部の部員。その他に剣道弓道合気道諸々、各部活から懇願されて仕方なく掛け持ちで入っているスーパーエリート男子。勿論女子からはモテモテ。
芸術部は所謂数合わせ。他の部活掛け持ちしてんならこの部に入らない理由はないよな、と半ば脅しみたいな形でサソリに入らされた。別に来ても来なくてもどっちでもいいと言われたから来ない事が多い(忙しいから)が、たまに顔を出す事もある。
因みに芸術部での活動は、絵やデッサンを描いたりしている。これが破滅的に下手クソ、メンバーからは「画伯」と呼ばれ絶えず爆笑の渦を巻き起こしている。
ブラコンな彼は新入生で弟であるサスケを芸術部へ誘った(運動部で怪我でもしたら嫌だから)が、物の見事に断られた。

□角都
芸術部の顧問。
担当教科は歴史。その強面と体格で生徒達に畏怖されているが、一部には大変人気のある先生。特に問題児の芸術部の一人飛段には、本人もちょっと扱いに困っているくらい。
芸術部の顧問にされたのは、先生方のたらい回しから。仕方なくも顧問を請け負うが、ひと癖ある部員達に眉間の皺が益々深くなるばかり。それでもちょいとキレれば直ぐに大人しくなるので、そこまで苦労はしていない。古き良き学校の先生。
厳格な風貌に似つかわしくなく、ロボット物が大好き。そこら辺を描かせたら天才的である。ガン○ム系に詳しくない飛段が以前ガン○ムと他作品を混同させたら、二日間腫れの引かない顔にさせたという衝撃的な事件を残している。






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