お月様の光に照らされた、群青色の部屋。まんまるの柔らかい光は、優しくて寂しい。
もくりと寝返りを打っては、ぱちりと覚めてしまう大きな瞳。晴れない表情をふかふかの布団に埋めていたけれど、程なくして静かに体を起こしてしまった。


「ねむれない…」


体はとても疲れている気がするのに、どうしても眠たくならない。時々そんな日を繰り返しては、夜が来るのが憂鬱に。
不安が胸をモヤモヤさせる。取りたくても取れない心の雲。それは決まって、心の奥に秘めた大切な物の鍵を緩ませてしまう。

お父さん、お母さん……

おばあ様にご迷惑をかける訳にはいかない。だけれど、どうしようもなく込み上げる薄暗闇のこの気持ちは、独りじゃどうにも出来なくて。寂しくて、悲しくて。


小さな胸を健気に庇いながら、音を立てない様に部屋の扉を開ける。きょろきょろと辺りを確かめ、霞んだ青の世界を独りで歩く。
居間を抜けた奥の硝子戸の先の空には、キラキラ瞬く星の合唱。一つひとつを見つめては、夜の空気に白い息を零す。
「お前の父と母は、いつまでも空からお前を見守っておる」。かつて深く抱きしめながらそう伝えられた。それは本当なんだろうか。星が見えるばかりで、こっちからは何も見えない。いない。どこを探しても。

暗くも眩しい独りの世界が、ふいにぐにゃんと揺らぐ。目の奥が熱い。
何もない夜空から視線を外す。と、いつの間にか目の前に誰かが立っている。あっ、と、小さく声が上ずった。


「風影、様…!」

「…今日も何だか、寂しそうな声が聞こえた様な気がしたから」


熱かった目が、もっと熱くなる。
続けた我慢をやめた時、温かな胸の中に顔をうずめていた。優しくて寂しくて、でも優しいもう独りのだれか。



お月様の光に照らされた、群青色の部屋。そっと優しく包んでくれるあたたかさは、いとも簡単に眠りを友達にしてくれて。
心の雲も、強い強い風がさらって行ってくれた。



寂しい夢も、きっと終わりはやって来る。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -