(およそ未来の、とあるお話)





遥か地平線まで何にも染まる事のない、砂一色の風景。厳しい環境下が屈強な忍を産み出すこの里のシステムは、今でも変わりはしない。
それでも今日は、まだまだ天候の良い方。吹き荒ぶ砂嵐が今は大人しい視界の晴れた空間の下、オレは風影の屋敷の最上階に一人佇んでいた。


忍の世界もあれから大きく変わった。
五大国が集結しその力を一つにしたあの大戦から著しく里々の友好が高まり、一昔前なら考えもしなかった事が、今や当たり前の様になってきている。
各里の忍が小隊を組み任務に赴いたり、忍術を共有し合い合同修業が積極的に取り組まれたり。今でも里の長として皆を牽引する弟の我愛羅や、木ノ葉隠れの火影のアイツが中心となって、忍の世を安泰に導いている。
砂隠れの特権だった傀儡の術も、現在では他里の忍が修得出来ていて、古臭い時代の確執は徐々に取り払われつつあった。

そんな傀儡の術を後世に受け継ぐ指導を行なっているのがこのオレなんだから、驚きってもんだ。
オレが人に教えを説いているんだぜ。それを通してオレを慕ってくれる人間も沢山出来て…そんな立場には縁がないと思ってたのによ。

幼い頃に傀儡に魅了され、それと共に今を突っ走ってきた。傀儡があったからこそ、オレは迷わずにここまで来れたんだ。
アンタがどんな道を駆けてきて、多くの者から根強く憎まれていても、オレにとっては…今でも一番に尊敬する人間だ。


なあ、……サソリ。



風の国にしては珍しい、優しく穏やかな風が外套を靡かせている。
屋上に備え付けられたベンチに規則正しく腰を掛け、目を閉じて動かない人形。幾年を経ても、そこに生命があると一瞬錯覚してしまう完璧なる傀儡。
ベンチへと近付き、それに目線を合わせる様に手前に膝を着いた。


サソリ、アンタが亡くなって戦闘跡地で遺体を回収して、その後傀儡として引き取ると里の上層部に伝えた時は、えらく反対されたもんだ。
そこで、アンタがどれだけ里に恨まれていたかも、嫌という程知った。その時はまだアンタにそこまでの思い入れは無かったから、耳を貸さずに只一つの傀儡として、胸を高鳴らせているだけだった。

やっとの事で許しを得られたは良かったが、一難去ってまた一難。
サソリを使えるまでに修理をする事にも、骨が折れたってもんだ。一緒に亡くなられたチヨバア様の遺した書物を読み漁って、試行錯誤を繰り返しながら今まで触りもしなかった緻密な細部にまで格闘して。
この時、傀儡は自分が思っていた程に繊細に出来ているんだなと痛感させられたんだ。この人形に芸術を見たアンタの気持ちが、少しだけ理解出来た瞬間だった。

サソリを実戦で操る事にも大分慣れた頃に、穢土転生で蘇ったアンタに再び出会った。
穢土転生が死んだ者を現世へと蘇らせると聞いて、不思議と真っ先にアンタの事を思い浮かべた。
初めて対峙したあの時の一矢を報いるとか、そんな気持ちが強かったけど、何だろうな…途中から尊敬の念を抱いていたアンタの存在が強くなって、真っ直ぐに駆けてきたオレの人生を、アンタが導いてくれたオレの生き様を…。
傀儡師としてのオレを、全力でぶつけた。

そして、アンタに受け継がれた魂と思いの宿る傀儡と、誇りを、貫き守り通している。



オレは背に負う荷から二つの巻物を取り出し、紐解いて中身を出現させる。
それは、サソリの父と母の傀儡。チャクラ糸を連結させ、サソリを挟んで座らせた。

母親はオレが物心のつく前に死んで、父親も忍の世の縺れの中で殺された。
正直な所、家族ってのは生きている中で大切な物なのか、オレには分からなかった。
人柱力として恐怖の存在だった弟、風影として里を統べる権力者の父。渇き切った砂を纏う風に晒され、家族とは名ばかりの温もりの少ない思い出ばかりを頭の隅で憶えている。

だが、今は砂隠れも変わった。
戦争中に父様と母様の二人の愛情を知った我愛羅は、家族を愛し、そして里の者他里の者関係なく、皆を統べる頂点として多くの者を愛し接している。
温もりある人の下は、自然と心豊かとなる。
風影を通して家族の大切さを学び直したオレは今、新しい家族と共にここに生きている。


そう、サソリ。

アンタとの約束を、果たす時が来たんだ。




「父さーん!ごめんごめん、小隊長会議が立て込んじゃってよォ」

「遅いぞ、…まあその小隊長会議もそれで最後だろうがな」

「え?それってどういう意味……あ、」

「お前を一人前と認めた時、これを継承するとガキの頃話したよな。その時が来た、この“サソリ”と“父と母”、お前に託す」

「…いいのか?父さん」

「お前はオレが認めた立派な傀儡師だ、父さんは誇りに思ってるぜ。総隊長の席もお前に譲るつもりだ」


そう告げられ、ゆっくりと傀儡に向き合う。一流の傀儡師も総隊長も、認められたここからがまたスタートだ。
その重さに、コイツは耐えられるだろうか。



「ずっと、夢見ていた」

「…!」

「サソリを操る父さんは、傀儡師として最高に格好よかったから。口には出さなかったけど、いつかオレもあんな風になれたらなって…」

「……」

「オレはサソリから受け継いだ父さんの意志と誇りを、ちゃんと理解しているつもりだ。だから…オレはその魂を継ぎたい」



サソリが傀儡に宿した魂。
オレが子に継いだ魂。

それは、さして変わらないものだと、ここに来て教えられたみたいだ。



「皆を引っ張る傀儡師と総隊長か…。よし、やってやろうじゃん!」

「…全く、お前はやっぱりオレの子だな」

「え、何だよ?」

「さあ、新しい総隊長のお披露目と行こうじゃん!」



あの日の約束を遂げる今日の日。
真上に昇る太陽に照らされた三人の顔は、満ち足りた微笑みを浮かべている様に見えた。





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