チヨちゃんに振る舞われた昼ご飯。
テレビの田舎番組とかでよく見る、そこら辺の色合いや味付けが予想外に美味くて。
笑顔で美味しいと零せば、チヨちゃんは一段と皺を濃くさせながら笑ってくれた。
「デイダラは良いのォ、素直に飯の感想を言うてくれる。サソリも小ぃさい頃は、素直で可愛らしい天使の様な子じゃったのに」
「ぐ、オイ!」
「何、なになに!?天使?マジで!?サソリのガキの頃ってどんな感じ?」
「バッカデイダラ!余計な事聞いてんじゃねぇ!」
「幼い頃のサソリはそれはそれは可愛くて、じゃが六歳ぐらいまで時々おねしょ…」
「だあぁぁっ!ババアもべらべら喋んな!」
「お、おね…」
「まあ…あの頃は、ワシの息子と嫁が事故で一辺におっ死んじまって、不安定になっとったからな。無理もない事じゃ、恥ずかしがる必要なぞない」
「ったく…どうでもいい事蒸し返すなよ」
…旦那って、もしかしたらオイラの想像を遥かに超えるぐらい、苦労をしてきたのかもしれない。
オイラはまだ両親が健在で、一軒家に住んでて、普通の学校に苦労なく行けていて。それが皆、当たり前に平等に歩む道だと思い込んでいた、今の今まで。
オイラは、以前オイラが関わりを持つ前の旦那をふと思い出してみる。思えば綺麗に見えたその姿は、憂いの影を帯びる少し悲しく、寂しい物を纏っていた姿だったのかもしれない。
もう少し、少しだけでもその影に早く気付いてやるべきだったんだな。その綺麗さに見とれている時間があったのなら。
でも今は、こうしてサソリの旦那と関わりを持てて、家族とも会話が出来る仲にまでなった。こうやって旦那の家族の輪に入って、一時でも旦那の心を温かく出来れば、こんなに嬉しい事はない。
「なあ、チヨちゃん。サソリの話もっと聞かせてくれよ、うん」
「デイダラ…それ以上オレの事聞いてどうするんだコラ。弱みでも握ろうってか」
「オイラのガキの頃の話もしてやるから、おあいこでな。オイラさ、幼稚園の時からやたら粘土遊びを褒められてよ。あ、でもしょっちゅう粘土を口に入れては親に怒られてたっけ」
「デイダラの子供の頃も面白いの〜」
「粘土食ってたとか阿呆丸出しだな、それで?」
「う…まあガキの頃だったし。そんでな…」
楽しい時間ってのはやっぱりあっという間に過ぎちまうもんで、チヨちゃんはそろそろ帰るかねと、重そうに腰をよっこらせと持ち上げた。
「たまには連絡寄越しとくれよ、小僧」
「はあ…チヨバアに電話かけると下らねぇ事ばっか訊いてくるからな…」
「そんな事言ってやんなよ、チヨちゃんはなぁ…サソリからの電話が嬉しくてしょうがないんだよ、うん」
「はっ、どうだか」
「なぁーチヨちゃん?」
「なっなっなっ…!べ、別に孫からの電話に舞い上がってそれを近隣のジジババに報告しとるとか、そんなもんしとらんからな!しとらんぞ!」
「アッハッハ、やっぱチヨちゃんは可愛いな!」
「ババをからかうもんじゃないぞデイダラ!」
最後の最後で、旦那とチヨちゃんの血の繋がりをはっきりと感じられた。ツンデレ家族とは、可愛いなぁ全く。
折角の休みに年寄りが邪魔に来て悪かったのと、こちらを振り返りながら手を振るチヨちゃん。旦那は照れ臭かったのか何も言わなかったけど、久しぶりにバアちゃんの顔を見れて、まんざらでもないって感じだったな。
「はあ…、やっと帰ってくれたぜ」
「また来てくれるといいな、チヨちゃん」
「…、そう何度も来られても迷惑なだけだ」
「またまた、旦那は素直じゃないな、うん」
「……旦那、か」
「うん?」
「チヨバアの前では、オレを呼び捨てだったくせに…」
「だって、旦那って呼んでヘンに思われたらややこしいじゃん。オイラも内心ドキドキだったんだぜー」
「…デイダラ」
「え?」
「その…何だ、もう名前で呼ぶのは……無しなのか」
「…呼んで欲しい?」
「…っ、べ、別にいい」
「サソリ」
「…!な、なん…だよ」
「やっと二人で過ごせるな、部屋に戻ろうぜ」
色々な事が一挙に重なった、充実な一日だった。
もっともっと、大好きなサソリの事を知りたい。そして、大切にしていきたい。
この想いを、この日々を。