オイラとサソリの旦那は、ご存知の通り犯罪組織でツーマンセルを組む仲だ、表向きは。
表向きと言ってもまあ、別に隠している訳じゃないんだけど。旦那が、お前の表現は派手すぎると指を差すくらいだから。
表現とは勿論、愛情表現の事。自分の感情を抑えられない事に定評があるらしいオイラは、旦那にいつも呆れられてばかりいた。自覚がない訳じゃねーが、そんなに言う程派手なんだろうか。


「あ、サソリの旦那!」

「ん?」


暁のアジト内で迎えた朝。その朝一番に、他のどいつでもない旦那の顔を見られるなんて。これが上半身裸の飛段なんかに出会したら、今日の一日は無駄になったも同然だ。

この人こそが、オイラのいっちばん心を掴んで離してやくれない人。
小柄で華奢な体に、それに相応しい愛くるしい顔つき。でもその天使みたいな容姿とは裏腹に、生意気でひねくれた態度、素直になった所なんか見た事がない。でもそこが旦那らしくて可愛いんだよな〜、うん。
どうやら、朝っぱらから新聞を広げて、世界の情勢に目を向けていたらしい。見た目はあれだが、実年齢35歳だからな。オヤジっぽい所も見られる。でももうそれすらも愛しい!ギャップ萌えというヤツなんだろうか!


「おはよー旦那!朝から新聞読む気力があるなんて、感心するなー、うん」

「お前も新聞くらい目を通せ、そんなんじゃいつまで経ってもガキのまんまだぜ」

「オイラはガキでもいいから、新聞より旦那を見つめてたいな」

「…、オレを口説き落としたいなら、それこそ大人になるんだな、デイダラ」


そう言って新聞を畳んで、オイラの脇を通りすぎていくサソリの旦那。
ああもう…ああもう…ああ…、もう!


「旦那ァ!何でそんな可愛いんだよ旦那はァーー、うんうん!」

「ちょっ…おい、抱きついてくんな暑苦しい!」

「そんなオイラより年下なナリして大人びた事言うんだもんな、ああもう大人に憧れる思春期のガキみたいで可愛いぞ旦那ァ!」

「オレは正真正銘の大人だガキんちょ、オレの機嫌を損ねる前にさっさと離れねぇか馬鹿が…」


流石に旦那を怒らせたくないし、ごめんと謝りながら旦那から離れる。でもその顔が全然反省の色無しににやけてるもんだから、呆れ果てられるオイラ。
旦那は抱きつかれても、余り抵抗はしない。でも抱きつかれる事は嫌らしい。そこから察するに、旦那は振りほどく力がないんだよなー。力事に弱い旦那、それも可愛いの理由の一つ。
旦那を可愛いって思う度に、こう…胸が締めつけられるというのか、キュンキュンするんだよな!そうだ…この気持ちは、他でもない。


「旦那、好きだーーー!」

「…!…はいはい」

「好きなんだ!サソリの旦那!」

「…っ、わ、分かったから」


本当に分かってるのかー?この今にも胸が爆発しちまいそうなこの気持ちを。自ら心臓を昇華させて、オイラ自身が芸術となれそうなこの気持ちを!!


「オイラサソリの旦那が大好きなんだよー!大好きって意味ちゃんと分かってるか?」

「うっせぇな殺すぞ、つーか着いてくんな」

「旦那がオイラの気持ちを理解してくれるまで、オイラは挫けないぜ、うん!芸術は爆発、旦那は大好き、この二つに精通する事は単純且つ奥深いという事」

「いい加減にしろ、ぶつくさうるせぇ。…そして自然な流れでオレの部屋に入ってんじゃねぇよコラ」

「あ、ホントだ、旦那の部屋だしココ。旦那に夢中で気付かなかったよー…ってあれ、サソリの旦那!?」


ガチャコン。
サソリの旦那が、いつも使っている傀儡人形ヒルコの中に、オイラを置いて引き籠もっちまった。そんな無機質な音を立てて。


「旦那ー?おーいサソリの旦那ぁー。何で自室なのにヒルコん中籠もってんだよー。オイラにその可愛い顔見せて欲しいなぁ〜」

「……」

「無視すんなよ旦那ってばー。出てこないと、ここにある傀儡全部オイラが爆発させちまうぞ?」

「…、傀儡に触れたら本当に殺してやるからな…デイダラ」

「うわっ、んなドスの利いた声の方で怖い事言うなよ、冗談だって…うん」

「…フン」


オイラは、小さく身を屈めて閉じこもる旦那の外側の殻を、手のひらで優しく撫でた。そして、その大きな人形に背中を預けて、旦那が嫌がる言葉を一時だけ胸に留めた。


「…分かったよ、んじゃ出てきたくなったら出てきてくれよ。オイラはここで待ってるから、うん」


部屋を見渡せば、旦那の造った作品の数々。オイラにはオイラの芸術があるから、完全には認めたくないんだけど、その一つ一つに旦那の魂が込められているのを感じるから、何だかここにいるのも悪い気はしないんだよな…。
すると、一間の静寂は意外にも早く切られ、ガコンと鈍い音を発しながらヒルコの背面が開いていく。咄嗟にオイラはそこから離れ、傀儡と向き合って中の人物を今か今かと待ち詫びた。


「…、サソリの旦那」

「…テメェ、オレを謀っただろ。オレに待つって言葉を使うとは…良い根性してんな」

「何が?オイラ普通に、旦那の事待ってただけだぜ、うん。言葉通りの意味だ」

「……」


険しい表情。それでもオイラは、旦那に笑顔を向けた。ガキくせぇというコメントを目の前の人から貰った事のある、オイラの無意識なる笑顔を。
旦那は何故か少し吃驚した様な顔をして、オイラから目を逸らす。眉間に寄った眉が、ゆるゆると力を無くしていくのが目に見えて分かって。伏せる睫毛と小さく動く唇に、オイラは……。


「やっぱお前はガキくせぇよ、…バカ」


オイラは、完璧ノックアウト。



「やっぱサソリの旦那は可愛い!世界一可愛いぜええええッ!!!」

「ああもうテメェは調子に乗るとコレだァ!もう少し大人になりやがれ!」





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