サソリは日に日に成長と共に、その美しさを増している。
幼き頃から特別な感情を彼に抱いているが、その想いも日に日に大きくなる。

オレは里の長風影、彼は一里の忍。なかなか二人で会う機会に巡り会えないのが、最近の悩みだ。時々任務完了の報告時にサソリを偶然見かけた際に、嬉しくてアイコンタクトを取るんだけど、そっぽを向いて顔すら合わせてくれないし…。
少し、寂しいんだよな…。



「やっぱりここか、サソリ」

「あ…?」


傀儡人形を制作する為の作業場。傀儡を保管する為の場所でもあるから、沢山の傀儡で埋め尽くされている。
突然の訪問客に、彼はどこから入ってきたと僅かばかり吃驚したご様子で。勿論オレは玄関から入ってきた、チヨ様辺りが鍵を閉め忘れたんじゃないかと言うと、サソリはがっくりと肩を落とし、婆さんまたか…と零していた。


「何…お前、また無断で抜け出してきたのか?」

「いや、今回は違うよ。外の空気五分くらい吸ってくるって、ちゃんと部下に伝えたから」

「高確率で五分以上経ってるだろ…それにここにいる時点で外でもないしな」


作業台に向かって座り振り返る顔は、オレに対しての呆れを含んだ表情だった。
久しぶりにオレの方をちゃんと見てくれている、それがどんな顔であれ、オレは嬉しさが込み上げてきた。ふっと目を細め、サソリに微笑みかける。
傀儡制作中だったかと訊くと、どうやら新しい傀儡を作っている最中だったらしい。


「名前は決まっているのかい?」

「…ヒルコ」

「ふーん、…どんな傀儡なんだ?」

「コイツは防御に特化した傀儡だが、勿論攻撃も出来る。仕込みもたっぷり積む予定だから、攻防型って言い方が正しいかな。それと、コイツは他の傀儡とは違う」

「…?」

「コイツの中にオレが入って、中からコイツを操る。近距離を叩かれる事に滅法弱い傀儡師の欠点を補った作品だ」

「おお…凄いな」


すると、途端に表情を不服とさせ、むくれた顔でこちらを見るサソリ。どうやら味気ない感想に、機嫌を損ねてしまったようだ。


「訊いといてそれだけかよ…、ぺらぺら話したオレが馬鹿みてぇ…」

「でも、傀儡の話をするサソリは楽しそうだから、聞いてるオレも楽しいよ」

「……」

「それ…ヒルコ、今までの傀儡の中では何番目くらいの出来?」

「ん、そうだな…。今回のはかなり良い出来だからな、直ぐ実戦で使えそうだし。確実にオレのお気に入りに入るぜ」


作りかけの傀儡をぽんぽんと叩き、白く細い指が傀儡の背を滑る。その行動に、彼は傀儡にある種の愛を施しているのだと、直感的に感じ取ってしまった。
それに何だか…決して気持ちの良い感情を抱かない。何だオレ、傀儡に嫉妬しているんだろうか。情けないな…だけど、事実だ。

サソリの小さな背中に触れる。両腕を回して、折れてしまいそうに細い肩に手を宛う。
彼はまた驚いている。だけど嫌がるそぶりは見せず、オレになすがままとされていた。心臓の鼓動が若干速い、これは驚いた時の反射的な物だろう。


「羨ましいな…サソリの傀儡は、こんなにサソリに愛されて」

「え…?」

「オレも、サソリのお気に入りになってみたいよ…」

「……」


サソリの鼓動が静まっていく。砂漠の暑さを感じさせない、薄明かりに灯された作業場。静寂がオレ達を包み、張り詰めていく。
先にそれを切ったのは、サソリの方からだった。オレの腕をそっと払い、ゆっくりと作業場から出て行く。

…相手に言い得ない感情を持っているのは、オレの方だけなんだろうか。サソリの座っていた木製の小さな椅子に座り、最近の彼の事を考える。
冷たいとは言わないが、まるで一方通行の想い。昔はあんなに親しくしてくれたのに…。ほっぺにチューだってしてくれたのに。
サソリは日に日に成長と共に、その美しさを増している。だけど、オレの想いとは別に、その心は離れつつあるんだろうか…。


「風影」


ふと、サソリに呼ばれた。あれ…サソリ、少し声が低くなったか?さっきは気付かなかったくらい、ほんの少しだけ。
呼ばれた先を見ると、部屋の入り口に佇む愛しい人。少し顔を背け、何だか落ち着かない態度。そわそわと体を動かして、それは照れを含んでいる様に錯覚するんだが…。


「お前は、傀儡とは違う」

「…だろうね」

「っ…その、そうじゃなくて。だから…お前は」

「…!」

「ひ、一人の、人間として見てるっつーか…、だから、違うんだよ傀儡とは」


ほんのりと、白い彼の頬が色づいていく。照れくさそうに唇を噤むその顔は、今までに見た事がなくて、少し大人の匂いがした気がした。

ああ…、そうか。


「そうか、思春期か!思春期なんだなサソリ!そのまだまだ発展途上な体から醸す大人の芳しい香りは正に…いじらしい大人と子供の境目…!」

「何でいきなりそんな饒舌なんだよ!さっさと帰れこの変態!」


彼の成長と共に、心情の変化を確かに感じ取った、涼しくて熱い日の出来事だった。




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