「ついに…ついに、オイラは更なる芸術の高みへと上がった…!究極新芸術の誕生だ、うん!」
年相応に散らかった自室で高らかに声上げんとするは、暁のメンバーの一人デイダラ。
散乱した無数の起爆粘土という屍を越えて、彼の手元に掲げられた小さなデフォルメ調の物体こそ、彼の言う究極新芸術その物。うんうんうんと、いつになく上機嫌で己の口癖を無駄に連呼する。
「これを誰に試す?そこらの輩じゃコイツが可哀想だ、コイツを食らうのに相応しいヤツは…うーんうーん…」
「デイダラー、次の任務の件だがな…」
「ッイテ!!」
突然開かれたドア。そこから現れ出たデイダラの相方サソリは、慣れた様子で彼の部屋へと訪れたが、その開いたドアは半ばで何かにぶつかり途中で動きが止まる。その次に聞こえた、彼の反射的に発せられた声。
察するに、粘土で足場の少なくなったデイダラは入口のドア付近へ自然と追いやられ、運悪く動きを見せた内側に開くドアに、その無防備な背中が餌食となった模様。
更に、予期していなかった出来事の為か、サソリは力加減を誤り、デイダラの後頭部さえもドアにぶつかる形となってしまった。
突然の頭の鈍痛。庇おうとする両手から、天に上げていた究極新芸術が、ゆっくりとゆっくりと落下していく。否、実際にはゆっくりではなく、そう情景が錯覚させて見せた。
この瞬間の長さ、およそ三秒足らず。
「あ…?うわっ!」
「痛ぅぅー…、はっ!だ、旦那!?」
刹那の状況後、デイダラが後ろを振り返ると、人間一人分の範囲で起きる小さな衝撃、そして沸き立つ煙に巻かれる自分の相方が目に映った。
直ぐ様状況を把握したデイダラは、酷く心を錯綜させる。
「さ、サソリの旦那!?…って何だよこのショボい爆発は!まさかの失敗かよ畜生がッ!いやいや失敗してなかったら旦那死んでたって!いやいやいやそれよりも先ず大丈夫か旦那ー!」
がくりと膝から崩れる目の前のシルエット。例え失敗と言っても爆発物に変わりはないのだから、負傷しても可笑しくはない。ああ…オイラ、サソリの旦那を爆破しちまった…旦那だけは爆発に巻き込まれない様にと心に決めてたのに…!
デイダラは無我夢中で、サソリの肩を掴み、煙で顔の見えない彼に必死で声を掛ける。
「っ…な、何なんだよいきなり…」
「あ…!よ、よかった!無事なんだなサソリの旦那!」
「げほっ、う…煙てぇな…」
ふりふりと手で煙を払い、徐々に部屋内が鮮明に映し出される。互いの顔も漸く拝め、安堵の表情のデイダラがそこにいた。
「わ、悪かったなサソリの旦那ー!」
「……」
「でも、いつも自分はノックしてから入れっつってんのに、旦那の方はしないんだもんよー」
「お前誰だよ」
「うん、お前誰って…、……えっ?」
「だから、誰だテメェは。見ず知らずの他人なのに馴れ馴れしくしやがって…あ?」
デイダラ、思考停止中。
何を…何を言っているんだこの人は。ああそうか!爆発食らった腹いせに、とぼけて冗談言ってんだろ。古くせーなーその手には乗らねーよ旦那ぁー。
「…あ、あっははは!旦那でもジョーダンかますんだな、うん!今時そりゃねーよォ!」
「うるせぇ…、…!お前その格好、暁の新入りかよ、全く喧しいヤツが入ったもんだ」
「…旦那?」
「今日はリーダーいるんだろ、つーか今日は召集の日だったな…って、おいテメェ!」
「リーダァァァァサソリの旦那が可笑しくなったァァァァ!!!」
「オレの名は?」
「あ…?暁のリーダーでペインだろ?何を今更…」
「私は」
「リーダーの相方の小南、暁の紅一点」
「じゃあ…オイラはっ?」
「……、いや知らねぇって。新入りだろ?」
「ほらァァリーダーこれどうなっちまったんだよォ!?」
「暁やオレ達の事は覚えているが、デイダラに関する記憶が全く飛んでしまっているな」
「も…物の見事にオイラだけ…これは何かの天罰だろうか…」
その場に崩れそうになるデイダラ。一方のデイダラの記憶だけを無くした一部記憶喪失状態のサソリは、へえーお前デイダラって名なんだなと、素晴らしく本気で彼を初対面の人物と認識していた。
「元の記憶を戻す方法ってないのか?」
「無くした記憶を思い出させるのは諸説あるが…例えばショック療法」
「もっかい爆発起こすか、うん!?」
「いややめておけ、…相方をもっと大切にしろ」
「なあ、コイツオレの新しい相方なんだろ」
「…まあ、お前からしたらそうだろうな」
「初対面は印象最悪だったが、オレだって駄々こねるガキじゃねぇよ。ツーマンセルの相棒として認めてやるが、オレの足引っ張んじゃねぇぞ」
「…なんか、サソリの旦那と初めて会った時を思い出す…うん」
「初心忘れるべからず、だ。頑張れよデイダラ」
「うわァァリーダーに丸投げされたァァ!」
とりあえず任務をこなすのに支障はなさそうだと、その場を退散する最高指揮コンビ。
記憶(デイダラだけ)を無くしたサソリとデイダラの、新しい芸術コンビの誕生の瞬間である。