フリーゲーム「Ib」のパロディ話。
捏造設定、ネタバレを含みます。
迷いこんだのは、小さくも大きな、歪で…不可思議な、暗く明るい美術館。
オレは芸術鑑賞の為にここへ訪れたはずが、辺りはすっかり人気が無くなり、誰の姿も見えず、只一人で…そこをさ迷い歩いていた。
そこで出会った、一人の人間。
流れる金の髪が美しく揺れ、澄んだ蒼い瞳はビー玉の様に透明で、その奥にオレの姿を映す程。
デイダラと名乗ったその男は、同じ様にこの美術館に閉じ込められたらしい。
だったら一緒にここを出ようと手を伸ばすと、満面の笑みを浮かべながらその手を握り返した。
時に牙を剥き、時に順路を導く美術品達。互いの魂の灯火である赤と黄色の薔薇を守りながら、奥へ奥へと突き進む。
薄暗い通路を歩く中、デイダラはふとオレに尋ねる。
もしここから出られるのは一人だけだとしたら…サソリはどうする、と。
暫く考えたが…お前を逃がしてオレは自力でここから抜け出す、なんて答えが出た。自分でもよく分からないが。
だけど、こうしてここまで来れたのは、お前の手の温もりが支えにもなったからで。それは紛れもなく本当だから。…絶対にここから出たいと思った。
勿論、二人で一緒に。
紙面に描かれた様な二次元的な空間。本当にここから出られるのかという不安を煽るこの世界に入ってから、デイダラの表情が曇りを帯びていた。
オレは…薄々気が付いているのかもしれない。認めるのが怖くて、只々その手の温かさに本当だと言って欲しかった。
一番奥の光を無くした部屋。
正面の壁には、背景だけが描かれた絵画が額縁に飾られていた。
そっと、繋いでいた手が離れる。
無の絵画の前に立つ彼は、悲しげな顔を浮かべながら真実を伝え始めた。
「もう気付いてるかもしれないけど、…オイラ、ここの美術品の一つなんだ」
「…デイダラ」
「類い希な才能に恵まれた芸術家に、限りなく人間に近い存在として描かれた事で、こんなに強い自我を持ってしまった」
「……」
この美術館に誰かを迷い込ませ、その人間を生贄に寂しい絵の中から自由となって、外の世界へ行けると…そう思った。
思っていたのに、なのに……。
「どうしてお前が来たんだよ…サソリ…」
「…」
「お前をこの絵に閉じ込めて、こんな世界から抜け出そうと思ったのに…!でも…、」
優しくて、
守ってくれて、
繋いだ手がとても温かくて…。
眩しく照らす太陽の様に。
日の光を浴びぬが故に、それは痛みを伴う程で。
「身代わりになんて、出来る訳がない!!」
「デイダラ、…オレは」
「…大丈夫だ、サソリ。お前にそんな事はしないよ。巻き込んで悪かった」
涙を拭いながら、デイダラはポケットから一つの小さな美術品を取り出す。白い蜘蛛の造形物。これをあの絵に取り付けて、この部屋を出た先の階段を下りていけとオレに促す。そうすれば、この美術館から外の世界へ脱出出来ると。
「ここから出れば、ここにいた記憶は全て忘れる」
「…!」
「オイラも壊れてしまえば、美術品として外の世界で飾られる事なく、永久に思い出せなくなる」
「そんな…」
「オイラは平気だ!サソリも…記憶が無くなるからきっと辛い思いはしないよ…。…何だ、上手く纏まるや。いいんだ、美術品如きが弁えを欠いた結果だ…」
「デイ…」
「いいから!これを絵に取り付けてさっさと行けよ!じゃないと…オイラ…っどんどん哀しくなるばっかりだ……」
そんな事を言われたら、
出来る訳がない…
「オレには出来ない、デイダラ」
「っ!なら…オイラ自身で終わらせる!意地でもサソリにはここから逃げてもらうからな、その蜘蛛貸せ……、…!」
永遠を愛するオレでも、
そんな永遠は認めてやらない。
「サソリ、何で…抱きしめ…」
「お前をオレの手で葬るぐらいなら、オレはお前の傍にいる」
「…っ!簡単に言うなよ…お前がここから出られなかったら、もう二度と外の世界には行けないんだぞ?この暗い温もりのない美術館で、一生を果たすんだぞ?」
「温もりなら…お前にあるじゃねぇか」
「…!」
「お前はこんなにも、あたたかい」
「っ…、サソ…リ……!」
今ならこう思う。
この小さくも大きな、歪で…不可思議な、暗く明るい美術館に迷い込んだのがオレで、
デイダラを救う事が出来て、
本当によかったと思う。
そう、“心”から。
この絵画が、ゲルテナ最期の作品か
赤と黄のコントラストが美しい
人物は男性?女性?
詳細は不明らしいな
向かい合う中央には、互いに差し出す二輪の薔薇か、二人は何を思っているんだろうな
ED「 永久 と 刹那 」
永久の時間も 刹那の記憶も
二人で 共に