ラッキーセブンの七階。一軒家住まいのオイラにしたら、七階なんていいなーというちょっと幼稚な発想。隣の芝生は青く見えるってヤツだな、うん。
確か、七階の通路を真っ直ぐ行って、右側から三番目って言ってたな。
…あったあった、表札の「赤砂」の文字。間違いないな。
ああ…この奥にオイラを今か今かと待ち詫びている旦那がいると思うとヤバい、色々とヤバい。
真っ昼間から阿呆な事考えてんなよオイラ、それこそ旦那に怒られる。
ここに来て期待と好奇による心臓の音が手に取る様に分かって、それが伝わり僅かに震える人差し指を、インターホンのボタンにかざす。押し際にピンポーンと無機質な音。
うわあー押しちゃったオイラ押しちゃったよぉーー!ドキドキがより大きくなっていく中、肩のラインに沿って下がるバックの紐を上げ直す。
と、目の前のドアがガチャンと重い音を立てて開いた。
「何だよその緊張出しまくりな顔、カメラに写ったそれ見て笑っちまったじゃねぇか」
「あ、お、さ、サソリの旦那っ!」
「クク…どんだけあがってんだよ」
旦那…旦那、私服だ…!制服のスタイルが定着してたから、今日は私服だっていう事さえも考えつかなかった!
うわ可愛い…格好自体は旦那だけあってセンスあって格好いいんだけど、可愛いの方が勝ってるぞ…うん!
それに、最初はノリ気じゃなかったのに今は表情が柔らかで、オイラの方が固くて、なんか…何だかマジで嬉しい!
「ほら、突っ立ってねぇでさっさと入れよ」
「お、おう!お邪魔します!」
「フ、一々笑える」
靴を脱いで、旦那の後に続いて小さな廊下を歩く。通された部屋を、オイラはさっきとは違った意味で口をポカンと開きながら、隅から隅まで見渡した。
「スッゲー…!広いな、うん!」
「置いてある家具が少ないからそう見えるだけだ」
確かに、キッチンの傍にあるダイニングテーブルに、寛ぐ為のソファーと背の低い小さなテーブル。ベランダへと続く戸窓の脇にベッドが一つ。細かい所を抜けば、それで旦那の部屋が成り立っている。余計な物は要らないと言わんばかりのシンプルさ、オイラは嫌いじゃない。
…つーかこんなすぐ目の着く所に、ベッドがあるとは思わなかった。ベッドはマズい、非常に。
私服の旦那、穏やかな表情、ベッド…。駄目だ、邪な事しか考えつかねーよぉぉ…!
「どうかしたか、デイダラ」
「だ、旦那…、…ごめん」
「あ?」
「きっ、キスさせ、…て?」
両手をパンと顔の前で合わし、どぎまぎしながら旦那にとんでもない事を言い放った。あああ理性の壁が脆いぞオイラぁ…。
「お前なぁ…」
「なんか興奮しちまったんだ、うん。旦那可愛いから…っダメだ我慢なんて出来ねー…!」
「ぅわっ、おい…デイダラ」
か細い手首を掴んで、別の手で腰に手を当てオイラに密着させる。オイラより小さい旦那の背丈、自然と上目遣いになるのが本当にたまらない。
旦那の方も観念したかの様に、軽くため息をついた後口元を近付ける。可愛いな…キスで止まれるといいけど…
ピンポーーーーン
「ってオイ!?」
「あ?こんな時間に何だ、宅配便か?」
オイラの手を振り払ってそそくさとオイラの脇を通り過ぎ、玄関へと歩いていく旦那の背中。
…ちぇっ、あともうちょっとだったのに。唇を尖らせ、不服な念のオイラ。
キスの邪魔をした張本人の顔を拝んでやろう、そろそろと忍び足で旦那の後へ追った。
「元気しとったかい、小僧」
「……」
「おっ?」
何だ、あの婆ちゃん。あれか、よくある隣の夕飯が余ったからお裾分けですよー的なお節介の婆ちゃんとかか?
……うん?バアちゃん?なーんか引っ掛かる様な…。
「田舎からひょっこり出てきたぞ。ギャハッギャハッ」
「……何してやがるババア」