静かで小さい、だがそれが良さと言わんばかりの小さな街。その一角の小さな公園広場のベンチにオレは腰を下ろしていた。
傀儡整備の道具の買い込みも終わり、自分の脇に置かれた幾つもの袋をポンポンと叩く。…流石に買いすぎたか、このオレを待たせやがるデイダラにでも運ばせるか。勿論全部だ。

任務終わりの自由行動、一足早く事を終えたらしいオレは、あのノロマを待ってやっているそう待つのが嫌いなオレが待ってやってるんだ。
…あと五分で来なかったら新しい毒薬の実験体決定な。今決めた。

目の前には、ある程度離れてはいるがこの街のガキ共がうるさい奇声を上げながら、至極楽しそうに遊びにはしゃいでいる光景。
うるさいとは言ったが、それを怒鳴り叱咤する気は全くねぇ。あれはオレより外側の背景に過ぎねぇ。どんなに騒がしかろうがオレもあのガキ共も関係ない。…ガキは嫌いだがな。
デイダラならキレてその辺爆破してるかも。まあ元テロリストだし、アイツ。あの頃よりは成長したとは思うが。

待つという行為はどうでもいい事を考えさせられる。だから嫌いだ。顔を地面に向け、退屈と呆れを含んだため息が無意識に出る。


すると、オレの目の前を通り過ぎる人影が視界を掠める。無意識に顔を上げれば、そこにオレの心に違和感を齎す存在がいた。

ソイツはその重たげな腹を庇いながら遅い歩みでオレの前を横切り、オレの座るベンチと並列の別のベンチに腰を下ろした。休み際にふっとため息、それはオレの漏らした物とは全く別物の、ある種の幸福を含んだ物だと理解した。
ゆったりとした長いワンピースが風に揺れる。服の上から見ても窺えるそれは、確実に一つの魂と魂が宿る姿だった。


「今日も一段と重いわね。そろそろ歩くのも辛いかな」


誰とも知らない空気に向けた独り言か、それともその腹の中に向けた会話か。その女はさも幸せそうな横顔を自分の腹に落として、優しくそれを撫ぜていた。
ガキ共の騒がしい声がふと途絶える。不思議と何も耳に入らない。只、面を食らった様にその姿が目に貼りついて離れやしない。


「…ん?」

「!」


そりゃこれだけ見てれば忍じゃなくても気付かれるだろ。合ってしまった目線をパッと断ち切り後悔の念を抱きながらまた地面を見下ろす。後悔するなら最初から見つめてんなよ…馬鹿かオレは。


「妊婦さんが珍しい?」

「…!」

「こんな大きなお腹だものね、見ちゃうのは当然当然」


オレのこの態の所為か、オレより年下の若い女にタメ口を使われ話し掛けられる。そんなの茶飯事だし気にしてもきりがないから気にしねぇけど。


「もう八ヶ月もここにいるの。どんどん大きくなっていくお腹に最初は戸惑ったけど、順調だってお医者さんに言われる度に嬉しくて」

「……」

「良かったら…触ってみる?」

「…っ!……あ、」


女…というか、母親らしい片鱗が見え始めるそのにこにこの笑顔を向けられ、どうにも断れない雰囲気に飲み込まれる。
確かにオレは、妊婦の腹になど触った経験がない。生命の鼓動は忍の一番触れられたくない場所を揺さぶられる。だから何だ、これは強制か、はたまた好奇心か。静かに歩むオレは今どんな顔をしてるんだろう。


「…」

「さ、遠慮なく」

「…っ」


何て事はない。普通の人間の腹の感触。只ちょっとばかり…ではないが、膨らんでいるだけで何も変わりはしない。
触ってはみたが特に感想無しなオレに不服だと言う様に、突然その内側から確かな感覚が手を通じて捉えられた。


「あ、今蹴ったわね。お腹を蹴るのは元気な証拠」

「…」

「君もきっと、大好きな人と結ばれて、大好きな人との間に子供を授かる日が来るわ。きっとね」



不意にこの女を見た瞬間に覚えた違和感を思い出す。この至極幸せそうな女と比べて、オレはなんて真っ当じゃないんだろう。
何の為に『この体』を選んだ、永遠に朽ちない体を手に入れたいが為、その思想はオレの辿り着いた芸術の美学、そこに至るまでの道のりの険しさ、父と母、家族、忘れたと言いたい過去の精神外傷、生まれた土地、砂隠れの里、忍、忍は命を奪う、今そこにある命を何の感情もなく………狩る。



「……え?」

「旦那〜〜!わりぃ遅くなった、うん!」

「テメェは遅すぎるんだよデイダラ。オレが何分待ったと思うんだ、罰としてそこの荷物全部テメェが持て」

「そりゃねーよ旦那ぁぁ」

「テメェには粘土があるだろうが。どんな手使っても全て運べ。…落としたら承知しねぇぞ」

「うへぇ……」



デイダラが来たからか、自分からそれを止めたのか…分からない。
もしそれを実行したら、オレは本当の意味で人間じゃなくなってただろうな。
今も人間か疑わしいってのに。…そうか、だからか。




「なあ旦那。あのベンチに座ってた女と何かあったのか?」

「あ?…待つのが嫌な腹いせに殺そうかと思っただけだ」

「うわータチが悪いな。オイラがあのタイミングで来て良かったぜ、うん」

「全然良くねぇよ…もっと早く来やがれこのウスノロが」

「ウスノ…今日はご機嫌斜めだな、サソリの旦那」


「ああ…、気色悪いったらねぇよ」




別の命を抱えるその姿、それは嫌悪かはたまた畏怖か。





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