更に旦那はオイラの隣へと移動し、腰を下ろしてオイラと同じ目線になる。だけど旦那は、こちらを向かずに傀儡だけをじっと見つめていた。
「…察しの通り、オレはコレと昔色々とあった。話すとかなり長くなるが、聞きてぇか?」
「いい。気にしてはいても、旦那の過去には興味ねーから」
「…そうか」
寂しそうな、だけどほっとした部分の多い旦那の短い言葉。
興味がないと言ったオイラは、正直嘘をついていた。きっとオイラの生きてきた半分ぐらいの年月を軽く上回る旦那のそれに、今いる立場として少なからず怖じ気づくから。
自分に自信がない訳じゃねー。寧ろ逆、オイラじゃなく旦那の方がどう思っているか、そこが一番怖くなる。
「旦那、」
オイラは…旦那の……。
心に暗雲が掛かる。柄にもなく不安を瞳に浮かべるオイラに、旦那はオイラの顔を一瞥してから申し訳なさげな表情を地面に落とした。
「…わりぃ、デイダラ」
「…っ…」
「オレがいつまでも引きずる様な態度がいけねぇんだよな」
「え……」
「コイツは、最期にオレに一生消えない様な傷を残していったんだ。それは十年以上経った今でも、完全には消えてくれねぇ」
「……」
「最後の最後まで狡いヤツだった。…そんな狡くてどうしようもないヤツを、こうして未練がましく傀儡として傍に置いているオレも、またどうしようもないヤツだ…」
哀しげな眼を傀儡に向ける旦那に、それさえも恋情に似た物を見ている気がして、やっぱり気持ちが晴れてくれねー。
だけど、デイダラ…お前は違うと続ける旦那の打って変わった眼差しにハッとした。
「お前は、知らず知らずのうちにオレの傷を癒していた。ガキっぽくって真っ直ぐな気持ちが、一時でも傷を忘れさせてくれた」
「…、ガキで悪かったな」
「フ…、そのガキっぽさに助けられたんだ。だからこうして、」
「!」
無表情を辿る傀儡の眼差しの前で不意に合わさる、オイラと旦那の唇。触れるだけの挨拶みたいなキスなのに、気恥ずかしそうにする旦那が可愛くて。
「三代目の前でも…キス…出来るし」
「…へへっ、旦那」
「…お前はガキっぽいけど、オレよりデカい背中とか、手の大きさとか、大人の部分もちゃんと分かってるつもりだ」
「オイラだって、旦那を信じてない訳じゃない。いや…オイラは信じてるから、旦那の整理がつくまで待ってるよ」
「…お前もお前で狡ぃよな…」
「え?」
「しかも天然かよ…ったく」