薄暗くも淡い、どこか青みを醸す室内。冬の季を表すような少し肌寒い夜の空気の中、一人の人がその端に座り込んでいた。いつもは束ねている長く細い髪を今日は解いて。
イタチさんはいつにも増して無の表情を通していた。しかしどこか生気がない。先に含んだ効き目の強い薬を服用した為でしょう。この部屋の色味もありますが、血色は決して良くないイタチさんのその顔はやはりいつも通り見劣り等しない。
その余りの美しさに私は息を飲むも、心配の念だけはどうやっても拭えはしなかった。
今にも壊れてしまいそうな彼の体。暁の外套の外からは窺えない痩せ切った体格。
一瞬の躊躇いを生じるが、それでも私はイタチさんへと一歩一歩ゆっくりと近付いた。
「…気分が優れないですか、イタチさん」
「……少しな」
僅かに首だけを動かし視界の端に私を映すイタチさん。伏した長い睫毛の奥の瞳は酷く疲れ切っていた。
彼は自分ばかりに鞭を打ち、他人の為に己の犠牲を厭わない。どうしてそこまでするのでしょう。どうして命を削るのでしょう。
私は、イタチさんの為に何も出来ないのだろうか。
自分の愚かさが、虚しさが情けなさが痛く染みる。何かイタチさんの為になる事をしたくて、お役に立ちたくて、苦しみもがき辿り着いたのは…すぐそこにいる彼自身。
私は思わず、彼のか細い腕を引いてそのまま抱き寄せた。冷たい肌をするイタチさんは抵抗するでもなく…その気力も無かったんでしょうか、じっと私の胸に包まれていた。
イタチさん、泣いてもいいんですよ
「…泣く?オレが…?」
泣く必要がどこにある
そんな物は…無い
そう言いながらイタチさんは寝息を立て深い眠りへと落ちていった。薬か…私の体温のお蔭か。眠りに就いても尚私の服を離さない事に、後者であったら心底嬉しく思う。
少しでも私が、イタチさんの拠り所となれたのなら。