東に太陽が昇る、朝。
まだ暑さの気にならない適温の中、オレは抱えられる程度の籠を持ち、家のベランダに続く階段を上がっていく。
外に出ると、煩わしい程デカい太陽がオレの目に入った。自然とその目を細める。
そんなに見つめる物でもない。すぐに目を逸らし、籠の中身…洗濯物を一枚取って干し始めた。
慣れた手つきで洗濯物を次々と干し並べていく。単調な作業だからか眠気がまだ取れないからか、一つ浅い欠伸が出た。そのタイミングで、アイツは現れた。
「おはよう、サソリ」
ベランダの縁に着地し、屈んだ姿勢で突然現れた…三代目風影。
オレは手を口に当てたまま目を見開いた状態で、しばし固まってしまう。
「サソリの欠伸してるとこ、見れちゃったな」
「…、こんな朝っぱらから何だよ」
「朝っぱらにサソリに会いたくなってしまったから」
「…阿呆か」
そんな風影に呆れたオレは背中を向け、籠に近付いてまた一枚洗濯物を掛ける。ベランダへと降り立ち、風影は皺を伸ばすオレの姿をじっと見つめた。
「……何だよ」
「サソリって洗濯物を自分で干していたのか」
「……。ガキの頃はバアさんが雇った奴らにやらせてたが、今は自分でしてる」
「ほお、思春期故かな。さてサソリの下着はどこに…」
「阿呆かァ!」
籠を探る奴の頭にオレはスパンと平手打ちをかます。こんな事が風影に出来るのは里の中でもオレだけだ。まあ、風影が冗談を言うのもオレに限るんだがな。
「ったく…どこまで変態なんだか」
「家庭的なサソリもまたいいな…」
そのからかう様な言葉の節々が気に食わないオレはまた風影をムッと睨む。褒めたつもりなんだが…とオレをどうどうと宥める風影。
「今は食事も自分で作っているのか?」
「まあ。バアさんが忙しくねぇ日にはたまに」
「サソリの手作り料理…ね」
「失敗したの限定なら食わせてやるよ、遠慮すんな」
「う…わざと失敗しないでね。というかオレはそろそろここで」
そう言うと風影は、オレに近付き洗濯を干してる最中のオレの額に軽くキスを落とした。
ばいばいと手を小さく降りながら、風影はベランダの下へと降り去っていった。
「…だから、人に見つかったらやばいって言ってんのによ…」
文句を吐きながらも、少し照れている自分が、情けなくてちょっと嫌だった。