上履きのままでも気にせずに、オイラは校舎裏へ続く道を歩く。赤砂の姿をきょろきょろと捜しながら。
校舎の開いた窓から昼休みの楽しげな声が聞こえてくるが、それもこんな一階付近じゃ掠れて聞こえて、静寂も同然。その静けさのためか、本当に赤砂がここへ来たのかさえ疑問に思えてきた。


「見間違い…じゃねーよな…」


尚も辺りを忙しなく見渡し、人の形を捜すオイラ。
すると、耳が僅かに拾った物音。いや…声、か?
随分と高い声が聞こえた様だったが、二回目のその声にぼんやりとしたシルエットが脳内に浮かぶ。


「猫……?」


高く鳴く猫らしき鳴き声。その声を道しるべに聞こえる方向へと歩き出すオイラ。
誰も近づかない様な物がゴチャゴチャとしている校舎の正真正銘の裏へと回り込んでみると、その鳴き声の主と目が合った。
そして…オイラが目的としていた人物もそこに。


「…あっ」

「……」


赤砂…。一階は物置小屋となっている校舎の壁に身を預け腰を下ろす格好でオイラを見上げていた。目が合った時、猫の時とは比べ物にならない程に心臓が大きく跳ねた。

だって…初めてオイラと赤砂の目があったんだ。初めて接点を持てたんだ。


「……」

「…あ、あっ!えっと…その、ね、猫の鳴き声が聞こえたから何だろうなぁーと思ってさ!」


不審そうな目でオイラを真っ直ぐ見てくる赤砂に、言い訳がましくまたもや下手なウソを作り上げる。
そうだよ、赤砂に会って何をしようとか何を話そうとか…全っ然考えてなかったよオイラ…。バカですか。
依然として変わらずの疑いの目を晴らしてくれない赤砂に、ちょっとでもそのレーザーみたいな視線を緩めてくれないかと話を持ちかけてみた。


「そ、その猫、赤砂の?」

「……いや」

「あ、違うんだ。…野良猫?」

「…飼い猫だ」

「そ、そうか…」


…やっぱり近寄り難いオーラが振り切れねぇ。まるでオイラには興味無しと猫に視線を戻し、その喉を指の先で撫でる赤砂。猫は気持ちよさそうにグルグルと喉を鳴らして目を細めている。
飼い猫なら野良よりかは人懐っこいけど、飼い主でもないのに随分と懐いてるな…。


「猫、好きなのか?」

「好きじゃねぇ」


意外な答えにヘッ?と思わず素っ頓狂な声を上げた。猫を可愛がる赤砂の姿に心が和んでいたのに、不意を突かれてまたペースを乱される。


「コイツが勝手に寄ってくるんだけだ…好きでも何でもない」


そう言って、赤砂は喉を撫でるのを止めて膝を抱えてうずくまる。構ってもらえなくなった猫は、何だつまんないのとでも言うように鼻を一つ鳴らし大きく欠伸をしていた。
…何となく居辛い空間に額に汗が滲むも、こんな所で折れる訳にはいかねー。折角二人きりなんだ…猫はいるけど。もう少し話をしてみたい。まずは距離を縮めてみるか。
足音に気付いていきなり赤砂がバッと顔を上げるが、吃驚しつつも猫に触りたいな〜とやんわり理由を付けてみる。
鋭い視線を断ってくれそれを了承の合図と勝手に思い、少しずつ距離を縮めていくオイラ。


「…ほーれにゃんこーー」


手を伸ばし、猫の頭へと触れる。柔らかい毛がオイラの掌を包んだ。
撫でてみるも、赤砂の撫でよりかは下手らしく、赤砂の時の様にあまり気持ちいい表情はしてないな…。寧ろ今にも引っ掻いてきそうな空気が怖い。


「…っひぃぃもう駄目!やっぱ初対面じゃそう懐かねーか。触らせてもらっただけ有り難く思えってか?」


そう猫に声掛けると、さっきより一層退屈そうな欠伸を大きくされた。行き場のない気持ちを苦笑いとして赤砂に向けるも、そっぽ向いて目さえ合わせてくれねー。
……何なんだこの状況。





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