『ありがとう』


彼女はこう俺に告げたのだ、何でお礼を言われるのか理由は分からない、けれど彼女は嘘ひとつない笑顔を言葉に添えて見せた。そして俺も何故悲しくなるんだろう、お礼を言われたら普通嬉しくて弾む気持ちになると思うんだ、だって今までそうだったから。ぽろり、俺の瞳からは涙まで頬に伝った、何で、何でなのか誰か教えて、分からないんだ、そんな情けない俺を彼女は優しく抱き締めたのだ。俺も彼女の背中に腕を回した、すると気付いたのだ、彼女も小刻みに震えていることに。
ああ『ありがとう』とはこんなに悲しかった言葉だっただろうか俺の肩がだんだん濡れてゆく、濡らす水は温かかった。


『……そろそろ、離して』


小さな声で彼女は言う、言いたくないんだろう、俺だって聞きたくない。
抱き締める腕の力を強めた、痛いぐらいに強めたのに彼女は痛い、とは言わなかった


『離れられなくなっちゃうよ』


小さな声がさらに小さくなった、言えないんだろう、僕だって言いたくない。彼女を離したくない、離れないで、俺の傍にいて、ずっとずっとずっと一生、一緒にいてほしい



そう叫べたら楽なのに。
何故そんな風になってしまったんだろう今の俺達は。




声を枯らして叫んで




















***

悲しい過去も日が経てば
笑って話せるようになるから
辛いのは、今だけ。



100806




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -