あの子は、憧れだった。




同じクラスのあの子。いつもクラスの中心で笑っている。公立の中学校なのに全国レベルのバレーボール部に所属していて、とても快活な子。
比べて私は、根暗でクラスの嫌われ者。
でもね、なぜか仲がいい。

「美結、ねぇ、美結ってば。」

ほらね、話しかけてくれる。

「なに、彩子。」
「描いてくれたー?」
「うん、まぁね。はい。」

彩子のために描いた絵を渡すと、喜んでくれた。
私と仲良くしてくれるのは、彩子が私と同じマンガオタクだからだ。それだけ。

なのに。

「美結って本当に絵が上手いね」
「ありがとう。」
「美結、そういうところがやっぱり好きだなー」

ほらね、こうやって。
簡単に「好き」って言えるのね。
人を信用できない私の心を、簡単に溶かしていく。




授業開始のチャイムが鳴った。
一斉に人が動き出す。
彩子も席に着こうとして、私が手を掴んで引き止めた。

「ね、彩子」
「ん?何、」

ちゅ。
机に貼りついた彩子の手に、キスをした。
変な子って思われたかな。本来キスなんて、同性でするものじゃない。
でも、この感謝をどう伝えるかわからなかったんだ。

彩子は驚いた顔をして、

「二人だけの秘密ね」

とだけ言って、席に戻った。






彩子への気持ちは、もちろん恋なんかじゃない。でも、友情って一言で言っていいのか、私はわからないな。
だいたい二人だけの秘密なんて、親友同士がするものでしょ。
彩子だって、他の女の子みたいに秘密なんてばらすに決まっている。それでまた私は嫌われるんだ。
前の私ならそう思っていたのに、





(私が「秘密」を信じるなんて)





Lips Drugさま提出
お題:一周年特別企画「手なら尊敬のキス」


2013/01/10



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