稲妻11 | ナノ


「映画見ないか?」「SFですか?」「ああ・・・」
ヨナスはそう答えたが、何だか歯切れが悪い。
「もしかしてホラー?怖いんですか?」
「いや、そんなことは・・・」
「まあいいです、じゃ見ましょう」
と、DVDをレコーダーに入れて再生したが、何故か予告編はことごとく濡れ場ばかり。
「・・・もしかして、AVですか?」ペーターが軽蔑でもするような目でヨナスを見つめた。
「ち、違う!」と焦るヨナス。
「飛ばせないんですか?」「うーん・・・無理だ」「仕方ないですね・・・。」
しばらく待つと、ようやく本編が始まった。

ところが・・・
「何ですかこれ!明らかにハリボテじゃないですか?」ペーターは大爆笑している。
「笑うな!ここが宇宙の神秘・・・」
「キャプテンってそんなキャラでしたっけ?」「気にするな」
火星という設定の砂地を、怪獣が走り回り俳優が光線銃を持って追いかけるというストーリー。
明らかに手抜きの作品を、ヨナスは一生懸命観ていた。
「ZZZ・・・」笑っていたペーターは、飽きたのか寝てしまった。
「おい起きろ!もうすぐクライマックスだ!」「へ?」「だから、クライマックス!」
ペーターが目をこすりながら画面をみると、
「え?スプラッター??」「いいから観てろ!」「嫌ですよ、グロいの嫌いです」「お前どっかの殺人鬼と名前同じだっただろ」「ペーターなんて何処にでもいますよ!!」
と、血塗れと悲鳴が飛び交うシーンを超えて、行き着いた先は
「ソフィー、死なないでくれ!」「カール、私はもう・・・」
「なんで感涙物?」「ううっ・・・」ヨナスはハンカチを押さえていた。ペーターの頭上には、クエスチョンマークが幾つか浮かんだままだった。


「で、結局何が観たかったんですか?」「・・・」
ヨナスは黙ったまま、疲れた顔をしていた。
「ココアでも入れますか?」「ああ」
ペーターがマグカップを渡すと、「熱っ、」といいながら飲む。
「ま、つまらなかった訳じゃないですよ。何をテーマにした映画なのかはわかりませんでしたけど」「嘘言うなよ・・・」
「借りる作品を間違えたんでしょ?」「え、何故それを!」「だって、タイトルがあの有名作品と酷似してますし、それで意地張って見入ってたってわけですね」
「・・・」「だって見え見えじゃないですか」ヨナスは居心地が悪そうな顔をしている。
「ま、そんなキャプテンも悪くないと思いますよ?少なくとも俺は好きです」「!」
「今度は本当に観たかったやつを観ましょうね」「ああ!」
幾許か明るくなったヨナスの口調を聞いて、ペーターもにこっと笑った。

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