稲妻11 | ナノ


「ここで、一週間ぐらい前に飛び降り自殺があったらしい」
「ああ、確か死んだ奴綺麗な娘だったよな・・・」
レオーネとエステバンは、あるビルの屋上に立っていた。
それは自殺するため・・・ではなく、興味本位である。
「まさかお前、その死んだ人をナンパでもしたんじゃないだろうな?」
「なわけない。確か、ノルウェーだったかスウェーデンだったか、北欧の方の奴だろ?そんな奴一人も知らねえ」
「じゃあ、何でここで死んだんだろうな?」
「ヨーロッパの、ドイツとかフランスとかの所で死ねばいいのにな」
「なんだその責任転嫁」
吹きつける風は、季節相応に冷たい。
二人が自殺騒ぎを知ったのは、自殺があってから4日後だった。普段彼らが生活しているエリアから遠かったうえに、試合があったので誰も言わなかったのである。
「発見したのは、タクシーの運転手だよな」
「二、三時間も気づかなかったらしい」
「ここあんま人いないからな・・・」
しばしの沈黙。
「なあエステバン」
「何だ?」
「なんかさあ、今、死んだ奴の気持ちなんとなくわかった気がする。」
「はあ?」
と首を傾げるエステバン。
「ここにいるとさ、段々死んでも良いって気になるんだよ」
「じゃあ今死ぬのか?」
「いや、俺はまだ死なねえ。まだサッカーしたいし、それに女の子いっぱ・・・」
エステバンはレオーネの頬を叩くと、
「今死んでもらおうか?」
「いやいやいや、冗談だよな・・・?」
エステバンは向こうを向いたまま。
「こっちだって冗談だから、お前が大事だから。な?」
「・・・わかってる」
風はさっきよりもまた強くなった。そして、
「そろそろ帰るか。テレス達心配するだろ」
「そうだな」
二人はビルを後にした。
その時、エステバンに透けた女性の姿が見えたのはまた別の話・・・


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