チョコの山
毎年のことながら、彼がバレンタインにもらうチョコレートの数は計り知れない。
たくさんの女の子から贈られたチョコレートが何個もの段ボールに入れられているのを見て、こんな食べられるのかとか、ぶっちゃけ迷惑だろとか、さまざまな考えが思い当たる。
つまりいろんな子からもらっていることにちょっとした苛立ちがうまれている。
いやでもね!景吾はかっこいいし、頭いいし、テニス強いし、なんでもできるし、とにかくみんなから好かれる存在だから、仕方ないと思う。
しかし彼女のわたしとしては、あまりいい気分ではないのよね!
『っていうわけなんですけど忍足さん!!』
バンッ、と机を叩いて忍足に力説するわたし。
「まあなまえの言うこともわからんでもないけど」
『そうでしょうそうでしょう。あんな山盛りもらったらさすがに気分悪くなりそうじゃない?食べる際に』
「まああの量やしな」
『さらにわたしが景吾に追い討ちをかけるの。ああどうしよう』
「つまりチョコあげようか迷っとるっちゅーことやろ?」
『oh!yes!そのとおりだよ!』
「自分アホちゃう?」
なんと!!!
つらつら語りかけてきた忍足に一刀両断された。
アホちゃう?のひとことで。
『なんでそういうこと言うの』
「だって仮にも彼女やん」
仮にもって…結構グサッてくるなぁ。
「彼女やったらこういうときは、そんなもん気にせんと渡すべきやろ」
『なるほど』
まわりのことなんか気にしちゃだめなんだ!
大事なのは気持ちか!
「ほら、はよ行き」
『うんっ』
ぱたぱたと景吾のところに走っていく。
予想通りと言うべきか、彼の手には大きな紙袋が4つぶら下がっていた。
さらに後ろで樺地くんが大きな段ボールを二つも抱えていた。
あらためて、跡部景吾の人気ぶりを知った。
「なまえ、どうしたんだ」
『今年も、いっぱいもらったね』
「ああ」
『す、すごいやっ』
これあげる、ただそれだけ言えばいいのに、出てこない。
なぜか無駄に緊張してしまう。
『…』
「で?」
『?』
「お前はくれないのか、チョコ」
景吾のその言葉を聞いただけで、私は胸がすっきりした。
後ろに隠してたチョコを景吾の手にのせる。
「おせーよ」
『う、うるさいなっ』
「ありがとな」
―お前からのチョコが一番うれしい。
忍足のところで無駄な時間を過ごしてしまったみたい。
だって、景吾は待ってくれていたのだから。
(チョコってさっき持ってたやつだけじゃなかったの)
(多すぎたから、分けて運んだんだよ)
*end*