臨時休校




冬の朝。

いつもの時間に起きて、カーテンをめくると外は物凄い吹雪だった。まれにしかない臨時休校も今日ばかりは仕方なかった。まぁ、生徒からしたらそれは嬉しいような悲しいような。猛吹雪じゃ、外に出て遊ぶ事も出来ない。ましてやサッカーなんてできたものじゃない。家でゲームをするか、溜まった宿題をするかだ。一階に降りて、ストーブの前に座り、出された朝食を口に運ぶ。




「れつと〜。お友達が来てるわよ〜」


友達?こんな吹雪に来れる奴なんていただろうか。最後、ひときれのパンを口の中に放り込みオレは二階に上がって、玄関に向かった。


「あ、喜多海じゃんか」


「…おはよう」


「おはようじゃねぇべ。どうした?いきなり来て…」


「休校って知らなんかったべ…」

そういえば、喜多海の家は学校からかなり遠い場所にある。冬場は自転車が使えないから一時間前に登校するって聞いたことがある。きっと先生の連絡が遅れたのだろう。オレの家は学校から近いし、きっと校門が開いてないんで来たんだろうな。


「良くこんな吹雪の中、学校に行こうと思ったな…まぁ、上がれよ。」

「ありがとう。」



とりあえず玄関で話すのも寒いので喜多海を家に上がらせた。母さんが喜多海の母さんに電話しとくって言ってたからオレは喜多海を自分の部屋に連れていった。

「今タオル持ってくるから待ってな」

風呂場からバスタオルを二枚持って部屋に戻り、喜多海の頭に被せる。頭に乗った雪が溶けて髪の毛が額にくっついていた。ガシガシと拭いて、濡れたマフラーと服を脱がしてオレのジャージを着せる。洗濯は母さんに任せるとして、オレのジャージは喜多海にはちょっと小さいようだ。手首が見えている。まぁ、大丈夫だろう。


「今ストーブつけるからさ、ちっとまっててな」

「烈斗」

「ん?」


腰を半分持ち上げたところで名前を呼ばれ、喜多海の方に目線を向けると顔が物凄く近かった。思わず後ろに退こうとしたら片手で背中の服を掴まれ、足を崩した。


「本当は会いたかった」



一瞬頭の中が凍った。喜多海の顔が近すぎて焦点が合わない。鼻先が付くか付かないかくらいまで近くて、オレはつい目を反らした。



「きた…」


「流って呼んで欲しいべ…」


きっと今のオレは耳まで赤い。頭の中が正常のようで困惑している。沸騰しそうだ。まだストーブもつけてないのに。

ひんやりとした喜多海の上唇がちょっとだけオレの唇に当たった。オレ、多分息が荒いと思う。心臓が鼓膜を振動させているように五月蝿い。




べろっ



「ひぎゃ!」


なんともオレの口からは色めきのない声が出た。いきなり舌をだしてオレの唇を舐めあげた喜多海が悪い。オレは悪くない。

「何するんべか!喜多海!」

「いやだって…」


反応が面白かったからなんて言われて正直オレは腹立たしい!今でも心臓が早くて寿命が縮みそうなのに…。


「バカにするんじゃねぇべ!」

「ごめんごめん」


謝る気がないようで、喜多海は苦笑しながら片手を上げて謝るふりをする。いつもマフラーで隠れている口が円を歪ませていて、余計怒る気力が無くなった。濡れた唇を袖で拭く。


「ストーブの元つけるべ」


いつまでも喜多海の腕の中にいても居心地が悪いので、オレは振り払うように喜多海から離れ、部屋の隅にあるストーブの元をつけた。けれど、体全身が湯船に使ったように熱い。これもきっと喜多海のせい。


「…俺、ちっと興奮してきた」


「なに言ってんだべ!!」




暗転黙々。
喜多海はわざと学校に行こうとしたに違いない!




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