隣同士あなたと私さくらんぼ





「雪、雨、雪、雨、また雪だよ」


各地では雨、または雪とテレビの気象予報士が告げていた。湿気を多量に含んだ冷たい風が体の末端から体温を奪っていく。


「そういう気温なんだ、我慢しな」

「わたし凍る。氷漬けにされちゃう」

「無駄口叩く前にとっとと歩け。濡れるぞ」

一つの傘に並べた二人の肩。とんっと触れた熱のなんと暖かいことか。すぐに離れてしまい、もったいないと思う。肌寒い今日のこの気温はかすかな熱でも恋しく思う。傘を持つ啄木の片腕にゆっくりと自分の腕絡めると、啄木は一瞬びくりと反応したが何も言わず、私はふふっと笑った。


「…なに笑っている」

「なんにも?お腹すいたよ。コンビニ寄ろうよあんまん食べたい」


絡めた腕にぎゅううと力をこめても何も反応が無い。少しは痛がれ。
テニス部で鍛えた腕はがっしりとかたく、男の子の腕なんだなぁと実感しながらふにふにと触った。


「話を聞け。そしてくすぐるな」

「えー雨だから良く聞こえないよー。くすぐってないし。撫でてるだけー」

はぁ。と溜め息をつく啄木に頭も寄せると「重い」と不機嫌な声で呟いたが気にしない。


「晴れれば啄木のテニスしてるとこ見れたのに」

こんな天気の為、部活は筋トレとミーティングで済ませてしまったようだ。だから一緒に帰れるのだけれど。


「コートに立つ啄木かっこいいから好きだな」


コンビニへ向かう道は雨だからか人が見当たらない。発する声は雨音に隠されて小さくなるけど、啄木には届いたかな。
ちらりと視線を上に上げれば顔を仄かに染めた啄木が無表情を繕おうとしていたところだった。
そんな啄木も可愛いと思う。うん可愛い。

「苗字」

啄木が私の名前を呼ぶので「なぁに」と頭を肩から離したその時。


「オレも、好き」


とっさに足が止まる。啄木は傘を持つ手を変えて半ば無理矢理に私の手をとった。
真っ赤になった啄木の顔。嬉しい。私の頬にも熱が集まるのを感じた。雨の中二人ひとつ傘の中で赤くなって。私たちまるでさくらんぼみたいだ。なんて考えていたら、啄木は誤魔化すように「肉まんがいい」と言った。私は啄木に手を引かれて、ゆっくりと雨の中を歩き出した。



100322
たちむかえ!の吉田さんへ


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honeylipの吉乃さんから頂きました。
ありがとうございます。






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