隣の席
中学初めてのクラスは和気あいあいとしていた。友達作りに皆必死なんだなと思う。それは2ヶ月たった今でも変わらない。オレは部活に入って相変わらず球拾いや先輩の休憩時間に打たせてもらうだけ。まぁ所詮、一年生などそんなものだ。
「きつつき〜、先輩が休憩にするらしいから打たせて貰おうぜ。」
「ああ、今いく。」
今日もいつものように先輩の休憩時間に球を打たせてもらっている時、下校する一人の女子が目に入った。女子とは同じクラスでしかも隣の席。けれどノートを一度だけ見せた事があるくらいで会話などあまりしない。少女はいつも机におでこをあわせて寝ているからだ。
名前はたしか…名前。苗字名前。教卓に貼ってある名簿をみて知った。苗字は可愛い見た目に性格が不思議系という事でクラスの男子からはちらほら名が上がっていた。何人かは苗字と会話をしたそうだが話を弾ませた者は未だにいない。苗字の方が「うん」とか「そう」としか言わないからだ。そういえばクラスの女子ともあまり話さないな。
部活に余計な事を考えているうちに先輩の休憩時間が終わった。ラケットをしまい、先輩が打った球をまた拾いに行った。
次の日、いつも通りに登校して自分の席に座る。苗字は相変わらず机におでこをあわせて寝ていた。登校だけは一人前に早い。けれどやはり寝ていた。
「苗字」
なんとなく読んでみたけれど、返事はないだろうと思った。が、直ぐに顔を上げて「なんだい?」と言った。
「…アンタ、クラスのみんなと話さないけどさ、趣味とかないのか?」
たかが2ヶ月の間、隣の席というだけの男子に趣味をきかれる女子の気持ちなんて今の俺にはわからなかった。けれど、そう嫌というわけでもなさそうに、苗字は目線を天井に合わせてから再度オレの顔をじっとみた。そして、たんと口を開く。
「授業中…」
「授業中?」
苗字の台詞を言い返す。
「先生の目を盗んでウッドアクセサリーを作っているきつつき君を見ることかな。」
赤面した。