相愛傘





「しめってる…」

初夏の気温はあまり高くない。
けれど、この時期は雨、雨、雨!
制服のスカートが毎日濡れてしまい、正直雨臭い。ファブリーズでどうにかごまかすしかないのだが、湿気はどうにもならない。

「暑くないのに汗がでるよ…シャツがべとつくし…最悪だよ」

「仕方ないよ…梅雨なんだしさ…」

「あ、六甲くんじゃないか。良いところに来たね!傘貸して」

「忘れたの!?朝から雨だったのに!?」

「うん、朝は送ってきてもらったから…」

「ふーん…」

口を尖らせたけど渋々と私に傘を渡してきた。いや、本当に貸してくれるとは…。六甲くんは紳士だね。
私は傘を受け取り、バックを肩に掛ける。さて帰るぞ、と玄関を出て靴を履くと突然、雨が強くなったような気がした。先程より雨音が強いよね。隣にいる六甲の顔を伺うように覗くとバツの悪そうな表情だった。そうだね、この雨じゃ完全に濡れちゃうもんね。

「一緒に入ろうか。」

「え!いいよ別に!」

「恥ずかしがるなよ〜。駅までなら良いでしょ?」

「う…ん」

傘を開いて門に出ると案の定、傘のない生徒たちが走ってずぶ濡れ状態になっているのを見かけた。ああ可哀相に。私もああになる予定だったんだろうな。

二人で傘に入るといくら男女だからって肩がきつかった。けれどその反面、六甲くんの体温がよく伝わる。あったかいなぁ。スポーツしてる人ってみんなあったかいのかな?
ところで会話が無くなってしまった。何か振らねばと思い私は六甲くんの方を向きながら渇いた笑顔で会話を持ち出した。

「六甲くん」

「なに?」

「雨嫌だね」

「うん…うーん…」


肯定しつつ、歯切れの悪いくぐもった言葉を返された。六甲くんにしては珍しい…のだろうか?よくわからないが珍しいことにしておこう。私は六甲くんの顔を覗きながら「どうしたの?」と答えた。



「名前と傘に入れるなら雨もいいかも」

「え!」

なんだって!六甲くんから告白してきたよ。え、告白じゃない?そんなのしらない
心臓バクバクで手汗がすごい。緊張してるのが良くわかる。

「六甲くん、それってつまり…」

「あ、オレ急いでるんだった!じゃあな!」

「そんなあからさまな!」


六甲くんが少女漫画みたいな行動をするからつい突っ込んでしまった。恥ずかしいのはこっちなんだから!

六甲くんはというと既に視界から豆粒くらいの大きさになって到底追いつけない。私はただ小さくなっていく六甲くんの背中を見ていた。


「明日、傘返さなきゃ…」


私はじめついた空気も気にならないくらい六甲くんのことを考えながら、六甲くんの走った道を一人で歩いていった。




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