哲学




「どうしてきつつき君はきつつきって名字なの?」


突然、隣に座る彼女が口から吐き出した言葉だった。クラス編成は教師の独断だから苗字と一緒のクラスというのは仕方がない。けれど、授業中にそんな話をしないで頂きたい。


「きつつき君、どうして君はきつつきって名字なの?木を枯らし鳴らす啄木鳥なの?」


そんなこと、訊かれても知るわけがない。一つの回答は祖先が名字を頂いた時に啄木という名字にしたからだ。そこにあるはずの理由など、知るよしもない。自分の名字も名前も、自分では選べないのだから。


「そんなこと、訊いてどうする?」

「ただ訊いただけなの。」


時に不思議なことを言い出す苗字、なにが言いたいのかさっぱりだ。突然話しかけられたかと思えば、名字について問いかけられた。それも理由なく。



「じゃあ、苗字。アンタはなんで苗字なんだ?」

「さぁ?わからないわ」

「それが答えだと思うよ」


ぱちりと大きくてきらきらした苗字の目が大きく見開いた。普段鬱蒼な目の癖にこういう時ばかり見た目が可愛い。


「なんで名字がこれなのか、なんて先祖しかしらないだろう?オレたちが知ることでもないしさ」


「…そっかー…哲学だね、きつつき君は」

「アンタ、哲学って意味わかって言ってるのか?」

「さぁ?」


半分不満、半分理解という表情で、苗字は黒板をじっと見つめ、カリカリとノートに書き写していった。





「なぁ、なんでいきなり名字について聞いてきたんだ?」

横目で見あってオレは大して気にもしないことを聞いてしまった。なにが聞きたいかなんて、自分でもわからないけれど、事の初めのセリフが異様に気になった。

「私は鳥の中で啄木鳥が一番好きだからね」


なんと簡素に、けれど、直通に言われた。いや、相手は鳥の事を言ったのだろうけど、同じ名の名字である限り妄想というなんと言えない羞恥心に駆られる。どことなく嬉しさが込み上げてくるのはきっと今のオレの頭が麻痺しているからなんだ、そうなんだ。

なんだかこんな事思っている自分が恥ずかしい。嬉しいけれど恥ずかしいからオレは目線を黒板に戻した。けれど、手が全く動かなくて頭の中は先ほどの台詞ばかり。もう一度、ちらりと苗字の方に目をやるとあれからなのか、じっとオレの方を見ていた。


「な、なんだよ…」


「フフ…」


えくぼが出来た頬がふっくらしていてさわり心地が良さそうだった。いや、今はそんな事を考えている場合ではない。


「どうしてだと思う?」

「は?あー…どうしてだろな」


何故啄木鳥が好きか、について問い掛けてきた。知らないよ。啄木鳥自体写真で何度かしか見たことがないのに。しばらく黙っていたら「最近好きになったんだよね〜」と言いながら苗字は目を黒板に向けた。そして、またオレに目を向けてから口元を緩やかに円を描かせた。






「好きな人の名字だからだよ」



初めは理解出来なくて呆然としていたが、徐々に顔が熱くなるのがわかった。勢い良く机にうずくまって必死で顔を隠そうとするとそれに気付いた先生が「きつつき〜どうした〜」なんて間抜けた声で言ったものだから無視した。今のオレはきっと耳まで赤い。極力苗字には見られたく無かったが隣でクスクス笑っている。誰のせいだっていうんだ。




当分顔は上げられない…





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