「相澤先生が学校内での敵との戦闘により負傷致しました。」

午後、滅多に鳴ることのない時間帯に電話がなった時点でなんとなく嫌な予感がしていた。
あの人がヒーローをしている以上、いつ何処で何があるかわからない。それを承知の上で一緒になった。
覚悟はしていた、つもりだった。

電話口の声に暫く反応することもできなかった。
なんとか事の詳細を聞き出し、すぐさま病院へ向かう。途中のことなんて覚えてない。震えが止まらず視界がぼやける度に自分を叱咤した。

私はヒーローの妻なのよ。しっかりしなさい。情けない顔なんてあの人に見せられないわ。大丈夫、大丈夫よ、あの人は大丈夫…

看護師に案内され扉の前に立つまでずっと同じ言葉を繰り返していた。

(大丈夫、大丈夫よ、あの人を信じて…)

体の震えが止まらなくて個室の扉を前に暫く立ち尽くしてしまった。
それでもこの扉を開けない選択肢は私にはない。意を決して重い扉を開く。

「…っ!…っ!」

何も言葉が出なかった。

普段から好んで着ていた黒い色の服の代わりに、真っ白な包帯が身体中に巻かれていた。何より大好きなあの瞳を見ることが出来ない。
足元が覚束ないまま彼の元へいくと、鼻をつく消毒液と血の、匂い。今朝まですぐそばにあった彼の匂いが消えていた。

「っ、消太…さん」

瞬きするほどに、はらはらと涙が零れおちる。お願い聴かせて、声を。温もりを。あなたの瞳を…
手にすら触れられない。確かにあなたはここにいるのに、暗闇の中に1人でいるような感じがした。
ベッドの端を握りしめて膝をつく。少しでも近くにいたい。

1人にしないで…あなた。


「…ナマエか?」
「っ!消太さん!」

聞きたかった声にほんの少し安堵する。

「すまんな…」
「っ、謝ることなんて何もないですよ…生徒さんたち全員無事ですって…1人個性の反動で怪我を負った子がいたそうですが…」
「緑谷か…」
「ええ、恐らく…」
「生徒達にも怖い思いさせたな…だが、あいつらは強くなる」
「ええ…あなたの生徒さんたちですもの」

優しくて、少し厳しすぎるあなた。生徒さんたちを守ることで必死だったのよね。あなたのその思い、きっと伝わってると思うわ。

「…すまんな」
「謝らないでくださいな、あなたはヒーローなんです。自分のしたことに誇りを持ってください」
「お前には迷惑をかける」
「覚悟の上です」
「泣かせてばかりでスマン」
「っ」

必死に平然を装っていたのに、やはり気付かれてしまった。今も涙が止まらない。

「消太さんっ、消太さんっ!生きて、帰ってきてくれただけでっ、私はっ」
「…当然だ、俺の帰る場所はここしかないんだからな。…こらからも頼むぞ。」
「っ、はいっ」


よかった、ほら、ね、大丈夫だって言ったでしょ
彼は誰よりも私のヒーローなんですから


「愛してます、消太さん」
「…俺もだ」



相澤消太の告白
何よりも、お前が必要だ


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