何もない、普通の帰り道。焦凍と2人。
体力づくりなんて名目立てて、学校の最寄り駅よりいっこ先の駅まで歩く。
学校内ではクラスの友達とかと一緒にいる分、こうやって2人だけの時間も欲しいもの
ドラマとか漫画みたいに突然のキスとか、不良に絡まれて彼のカッコイイ所を見てドキッなんてものなく、ただただその日のこととか、最近活躍したヒーローの話題とかポツリポツリと話す程度。

味気ない?
つまらない?

そんなことない、だって隣に彼がいるって実感するだけでこんなにも胸がいっぱいに成れる。
どきどき、する

「こないだ言ってたやつ、緑谷とのやつな…」
「うん」

焦凍の低い声が好き
彼は真面目すぎるって言われてるけど、変なとこで変な解釈して変なこと口走っちゃたりする時もある。
結構突っ走っちゃうところとか、かわいいなって思っちゃう(本人には言ってないけど)

気まずい時とか、気恥ずかしい時、ちょっとだけ目線外すよね。
じっと見られると心臓に悪いから、少し助かったりしてる時もある。
焦凍の目、色違いの瞳
ずっと見ていたい程綺麗だけど、いつも私が先に限界来ちゃうんだよね、もうダメ、恥ずかしくなるもの。
頭まで心臓上ってきたのかって位、いっぱいいっぱいになるの。

ねぇ、焦凍、聞いて
…やっぱり恥ずかしいから内緒だけど──




帰り道、何気ねぇ時間。
何気ねぇ?そんなことはねえな…いちいちナマエの反応とか、気にしちまう。
もう少し近づいても大丈夫か、とか、歩く速さはもっと遅いほうがいいのか、とか
自分でくだらねえって笑えるようなことで頭ン中いっぱいになっちまう。
落ち着こうとそれこそ何でもねえ話持ちだして、会話する。
ナマエはいつも楽しそうに聞いてくれるから、話してて飽きねえ。
俺も、ナマエの話しならなんだって何時間だって聞いてやれる。それこそ、ずっと…

「それでそれで?」
「ああ、そん時な…」

口の端を綺麗に上げて、また一つ微笑むナマエ。
かわいい、綺麗だ、だとか大概キザな言葉なんかよりも、とてもこいつの前で言えねえ、俗な言葉しか出てこねえ。
知ったら、ショック受けるだろうな。いや、知られたらマズいんだが。

くるくると表情を変える目とか、欲情しちまいそうになる口元とか、ちいせぇくせにヤケに柔らかそうな身体…とか、何でもかんでも欲しがっちまう。なんか、悪りぃな


ふと、視界に入る俺たちの影の形や大きさにでさえ考えさせられる。
同じヒーローを目指す者同士ではある、が…


「(俺が、守ってやるからな)」
「ん、どうしたの?」
「いや、なんでもねえ」

独りごちる思いについ胸が熱くなる。
こいつは、ナマエは特別だ

なぁ、どれだけ伝わってるんだろうな
らしくねぇから言わねぇけどよ
俺な──




互いに揃って歩く男女が2人。
二度三度と手の甲が触れ合う度にぎこちなく距離を取るが、何度目かに男の方から故意に手をぶつけ、そのまま彼女の手をとった。
不自然な行為だったそれは、やがて2人の熱で自然と溶け合う


(焦凍が好きだよ)
(ナマエが好きだ)




轟焦凍の帰り道
他愛もない特別な時間


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