雄英高等学校 全国から超がつく程強めの個性を持つ子たちが集まるヒーロー科で有名な学校 ヒーロー科だけでなく、超一流企業がアポイントメントしてくる程奇天烈な発想と開発をするサポート科や、高校生とは思えないほど経済に特化した経営科、密かに野心を燃やす生徒が多い普通科、とまぁ、あんまり普通でない子たちが集まる学校。 そんな高校生を相手する教師陣も普通でない人ばかりだ。 「おはようございます、イレイザー・ヘッド先生。お体の調子はいかがです?」 「リカバリーばあさんの治療が大げさすぎて治るもんも治らねえ」 「経過良好のようですね、何よりです」 「あーナマエちゃんここにいたーお願い二日酔い治してぇ」 「ミッドナイト先生、そうゆうサービスは承っておりません。これを機に深酒のクセを見直しましょう」 「そんなカウンセリングはカウンセリングじゃないわ!」 「YOー!ナマエ!今日も仕事放棄してるなぁ!!」 「誹謗はやめて下さいプレゼントマイク先生。私はちゃんと仕事してますとも。私の仕事は生徒の怪我と悩みの治療ですから。先生方には該当しません」 「相澤にはカウンセリングしてんじゃねーか!?」 「イレイザー・ヘッド先生はリカバリーガールより経過観察するよう言われてますので」 「贔屓!俺らの相手もしてくれよ!」 現ヒーロー達がこれほど集まる学校も珍しいだろう。 基本ヒーロー科を担当する教師は皆現役ヒーロー達。そんな彼らが手塩に育てる生徒たちはそりゃ立派に育つはずだ。 私の仕事はそんな大切な生徒さん達が怪我をした時の治療と、精神的なフォロー。 もちろん治療はリカバリーガールが専門だけど、如何せん生徒も多いこの学校に保健医が1人では足りなすぎるのだ。かといって2人でもいっぱいいっぱいだけど。 「ごほっ、ナマエくん」 「あら、おはようございますオールマイト先生。本日の具合はどうですか?朝ご飯食べました?昨日より隈が酷いようですが夜更かしなんてしてませんよね?いくら生徒さんが可愛いからといって以前のように夜中までつきっきりでトレーニングに参加なんてしてませんよね?まだまだ現役だと言って無茶をなさるとこの間のようにきっつい説教されますよ」 「だ、ダイジョウブだよ!」 もともと治療専門でサイドキックをしていた私も、この現No.1ヒーローがきっかけでこの学校に赴任することになった。 「ごほっ、ナマエくん。リカバリーガールが呼んでいた。私も彼女に用があるから一緒に行こう」 「ええ」 ひたすらに長い廊下を長身だけど細身の彼と歩く。 窓が多すぎるこの学校は、日差しが強い日はこの廊下が怖いぐらいに明るくなる。空調が効いていなかったなら灼熱地獄なんだろう。 「…緑谷くんの調子はどうですか?」 「…んん、右手はまだ本調子ではないね。治療を受けたといってもあの手じゃ日常生活に戻るのも苦労するかもしれない」 「そうですか…なにか、私にできることがあれば…」 「ナマエくん、君はもう私のサイドキックではない。必要以上に私達に干渉することも…ないんだよ?」 「はい…わかってます、でも…」 6年ほど前、敵より受けた傷で生死を彷徨ったトップヒーロー。それを機に上からの要請で私はこの人のサイドキックへと異動になった。その事は公にされてはいない。当然だ、あのオールマイトにサイドキック等、前代未聞だったのだから。メディアに知られれば治療専門の個性の私が何故サイドキックに当てられたのか血眼になって探るはずだ。 この世界を担うヒーローが重傷を負い、今後の活動に制限ができたなどと、知られては決していけないのだ。 「でも、あの子…緑谷くんは放って置くわけには行きません。彼には…強くなってもらわないと…」 「……私もそう思う、が、過度のプレッシャーで体育祭では重傷を負わせてしまった。私の責任だ」 「………」 まだ、あの子には早すぎたのだ。個性を自由に使える身体ではない。あの子自身、頭の敏い子だからその事は誰よりも理解しているはずだった。 「それでも、私はやはり緑谷少年に期待してしまう。あの子は必ず私よりも立派なヒーローになってくれる。必ず、だ」 彼を語る痩せ細ったトップヒーローは、確かにその瞳に強い光を宿して次世代の子を思っていた。 「はい、私もそう思います。…じゃなかったら誰かの為に自分の身を壊すような事はしないでしょう。きっと誰かさんのように周りに心配をバラ撒きながら世界を守ってくれるのでしょうね」 「む……ん、んん、その辺は何というか、私に似なくて…いいのだが…」 「大丈夫です、何かあったら面倒見ますよ、師弟ともども」 「ん、…すまない!よろしく頼む!」 「ふふ」 朝日が反射して廊下が白く輝く 真っ白の様な世界で貴方と私、これから先の未来を思ってこうやって話せるのは、あと…どの位までなのか… 残された時間の中で、貴方に出来ることはきっと少ない 「あっ、」 「どうしました?」 「保健室の前に…生徒が…」 「こんな朝早くに?珍しいですね。急患だといけないので私が様子を見てきます。隙を見て保健室に先にお入り下さい。」 「悪いね…」 トゥルーフォームの彼の姿を知る生徒はほとんどいない。が、仮に見られていたとしても彼=オールマイトとは悟られてはいけない。ほんの少しの可能性を防ぐために、生徒との接触は最低限にしなくてはならないのだ。 ぱっとみ具合が悪そうに見えない生徒に近づく、あの見覚えのある髪は… 「轟くん…?」 「っ、おはようございますミョウジ先生」 「おはよう…どうしたの?どこか怪我でも?」 「いや、先生に会いに…」 「先生って…私?」 「はい、ミョウジ先生と話がしたくて」 私よりも背の高い彼が、少し居心地悪そうに話す。その姿は歳相応で、とても体育祭で異彩を放っていた子には見えない。 「もしかして、お母さんとのこと?」 「はい、母に会ってきました…」 あの日、体育祭で緑谷くんとの対戦後、目に見えるほどに彼の精神状態が不安定になっていた。 決勝戦ではそれが原因かは分からないが、不自然な行動も目立った。 ミッドナイトの個性で眠った爆豪くんのアフターケア後、目が覚めた轟くんの治療とカウンセリングを申し出た。彼の場合はリカバリーガールでは治療しきれないものがありそうだったから… 彼女と出会ったのは体育祭で、爆豪にやられた後だった。 目が覚めた時にすぐ側に彼女が微笑んで座っていた。 『知ってるかもしれないけど、保健医助手のミョウジよ。治療も兼ねて軽いカウンセリングもさせてもらうわね』 『……』 『いきなりよく知らない人に色々話すだなんて無理だと思う、だから、もしなにか聞いてもらいたいことがあったら言ってね。…あと』 『?』 『お疲れ様、よく頑張ったね』 『っ、』 人に、頑張ったと言われたのは何年ぶりだ 親の個性を十二分に受け継いだ俺に、個性以外の賛辞を送る大人など数えるほどもいなかった。 『俺は……』 『大丈夫、貴方はやれることを、やりたい事をした。貴方の努力でここまで来たのよ』 (なりたい自分に) 『っお、れ…は、間違って、いたのかもしれない』 『…』 『ヒーローを、目指す理由を間違えた、なにも見えてなかった』 『でも、貴方はそれに気づいたのね』 『…緑谷が、教えてくれた』 それこそ無茶苦茶しやがった。何年も忘れていたお母さんの記憶とヒーローになりたい夢を思い出させてくれた。 『俺は、なにをしてたんだ…あいつを恨んでも、意味なんてなかったんだ。なのに、俺は…』 『…もう、ヒーローにはなりたくない?』 『そんなことねぇ…でも』 このままじゃ、だめだ。今のままじゃ、何も変わらねえ、何も見えてないままだ 『貴方は今日、友達の手を借りて新しい道を垣間見た』 『……』 『その道は今まで来た道よりも険しくて、でも確かに貴方が望んだものに通じる道です。不確かで見たこともない道は不安が付きまとうもの。その中から、貴方は道標となる光を探している。でも、その道を示す光は貴方の中にあります。』 『俺の…なかに…』 『往くも行かぬも貴方の自由。どうなりたいかは、貴方が決めていいのよ』 (なりたい自分に なっていいんだよ) 『俺が…なりたいもの…』 『ええ、大丈夫、貴方は一人じゃないのだから』 くすぐってえぐらいに優しい手つきで頭をなでられる。 思い出す、お母さんの暖かさを、あの時に思った、強い将来の夢を 『俺は、ヒーローになりたいっ、俺の、意志で…』 『今の貴方なら大丈夫……疲れて、休みたくなったら私の所にいらっしゃい、ゆっくりお話しましょう』 この人のお陰で色々と覚悟が出来た。 表彰台に立つ頃には、これから何をすべきなのかも見えてきた。キッカケをくれた緑谷と同じ、大切な人だ。 お母さんに会いに行く前にも、幾つか話を聞いてもらった。 結局、誰かのひと押しが欲しくてすがっちまった。 「すみません、色々迷惑かけました」 「私はそう思ってないわ、一歩を踏み出したのは轟くんの力よ」 職業柄なのか、この人は欲しい言葉を欲しい時にくれる。 すげえずりぃなって思っちまうのは、俺がまだガキだからだろうか 「母は笑って許してくれました。俺が何にも捉われずにいることが救いだと言ってくれました」 「そう、良かった…轟くん、貴方はこれからどうするの?」 「俺は…まだ決めなきゃならない事があります。その為にも色んな物を見ようと、思います」 「そうね、それがいいと思う。大変なことも沢山あるでしょうけど…」 「…何かあったら、また聞いてもらってもいいですか?」 「もちろん、ふふ、何もなくても来てもらって構わないのよ?」 そう言った彼女の笑顔はやはりお母さんを思い出させるもので… きれい、だ 「はい、また…来ます」 保健医助手の彼女 貴女に会いに ネタ提供:轟くんが先生に恋する、その他設定モリモリ |