「ヤバイ、オイラやばいもん見ちまったかもしれない」
「どした峰田?お前がヤバイのはデフォだろ」
「アホ上鳴に言われたくねェ!!」
「ちょ!峰田くん上鳴くんっ店内だから静かにしたほうがっ!」
「ここは他人のふりがいいわよ緑谷ちゃん」
「ねぇねぇこの布地なんてどかな?」
「麗日くん。文化祭の出し物にキャラクターものは著作権的に危険ではないだろうか。」
「オイラの話を聞けよ!!」


週末・休日。文化祭も程近くなってきて各クラスの買い出しや準備も本格化してきた頃。
僕たちは駅近くの大型手芸用品店へと買い出しに来ていた。
出し物はクラスでさんざん言い合って、こじれて、ねじ曲がった結果、コスプレ喫茶ならぬコスチューム喫茶になった。衣装は各自のコスチュームだから衣装コストを削減できる代わりに内装とメニューとパフォーマンスに力を入れる予定だ。申し訳ないけど今から不安しか無い!パフォーマンスて!


「マジでヤバイの見たんだって!」
「オバケ?」
「買い物中の敵か?」
「あ、もしかして相澤先生…とか?」
「アレじゃね!満面の笑みの轟とか!?」
「その発言のほうがヤバめよ上鳴ちゃん」
「ちげーよ!そんなんじゃねぇ!」


テンション高すぎる峰田くんが全身でヤバさを表してるけど、全く伝わらない。
顔色が優れないとこを見るとかなりショックな光景を見たらしい。


「何を見たの峰田くん」
「ナニって緑谷お前っ!!爆豪が!」
「あ、まって何かお腹痛くなってきた」

かっちゃん!?まさかね、手芸用品店にかっちゃんがいるわけ……


「爆豪が!女と歩いてたんだ!しかも手ェつないで!!」
「なんと!いや、峰田くん。それはきっと幻覚だ」
「疲れとるん?」
「もしくは憑かれているんじゃ?」
「爆豪に彼女とか聞いてねーし!ないない!」
「っ!(ああああああああああ)」


多分、ナマエちゃんだ
いや絶対ナマエちゃんだ!かっちゃんと手を繋いで無事でいられるなんてナマエちゃん以外いない!
あの二人やっとくっついたのか…良かった……じゃない!


「み、峰田くん、それ何処らへんで見たの…?」
「デクくん?汗すごいよ」

麗日さん、そりゃ汗だってかくよ!だって、もし、もしもこのままココにいて二人に鉢合わせなんてしたら…なんかよくわからない八つ当たりを受けるに決まってる…!
僕だけならまだいい…。ヘタしたらここにいるメンバー全員が被害に!そしてお店にも迷惑が!!あああああ!


「ドコって、あっちのボタンコーナーに…」
「あれ、出久?」
「っっっ!!?あああ、ナマエちゃん……かっ…ちゃん…」
「…………」


終わった。この店は今をもって閉店だ。内装用の布地はまた別の日に別の店で買わないとな


「出久どうしたの?なんか凄い遠い目してるけど。えっと、みなさん雄英のお友達、かな?かっちゃんも知ってるんだよね?」
「……ん」
「(ホラ見ろオイラの言ったとおりだろ!)」
「(ん、て!あの爆豪くんが素直に頷いちょる!!ヒィ!)」
「(不純異性交遊だぞ爆豪くん!)」
「(やべぇやべぇやべぇ…やべぇ!)」
「爆豪ちゃん彼女さんからも‘かっちゃん’って呼ばれてるのね。緑谷ちゃんと一緒ね。」
「((うわぁああああ言っちゃったぁあ))」
「…あ?」


トドメのような一言にかっちゃんが少し反応した、様にみえたけど、ナマエちゃんの前だからなのか普段ほどの威圧は感じられない。
今ならまだ間に合う!かっちゃんが爆破させる前に退散しよ…


「かっちゃんと出久と私は同じ団地の幼馴染なんです。だから呼び方も一緒で…私、昔は出久って上手く言えなくて‘いじゅく’って言ってたんだよね、ねぇ出久」
「え、ああうん、そういえばそうだったね」
「こいつはデクでいいんだよ」
「その呼び方も可愛くて好きだけどね」
「デク殺ス」
「えええええ」
「あ、私二人の幼馴染のミョウジナマエです。いつも二人がお世話になってます。」
「なってねぇよ」

「(彼女さん普通の人や!‘いじゅく’て可愛いな!)ウチ、麗日お茶子!よろしく!」
「爆豪くんに似ず良識的だな!俺は飯田天哉だ!1-Aのクラス委員長を務めている!」
「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで。後ろの二人は無関係だから気にしなくていいわ」
「「ゥエエエエエイ!?」」


まずいぞ…帰るタイミングを逃してしまったかもしれない!
いや、自己紹介も終わったからここから自然な流れで解散に誘導すれば…!!


「じ、じゃあ、二人の邪魔しちゃ悪いから…」
「あ、大丈夫。もう用事終わったから」
「ああ、そう…なら僕達も…」
「二人はなに買ったん!?」
「(麗日さぁぁあん!?)」


ダメだ!もう麗日さんの目がキラキラし始めた!この二人に興味持つとか度胸あるなぁ…!


「ボタンです。かっちゃんの制服、ワイシャツのボタン何個かボロボロだから…似たヤツ探しに来たんです」
「ボタンなんざどれも一緒だろ」
「雄英のワイシャツボタン、ちょっと大きいよ。いつも縫ってる時見てるでしょ?」
「知らね」


ああ、うん。かっちゃんナマエちゃんしか見てないんだよね。ボタンは二の次なんだね。
っていうか、かっちゃんのオレンジ糸のボタン、やっぱりナマエちゃんだったんだ。中学の時からずっとってことだよな。
なんか、いいな。昔買ったオレンジの糸が二人を結んだのかなぁ…なんて…


「二人はいつから付き合ってるの!?馴れ初めとか!色々聞きたいんやけど!」
「お茶子ちゃん落ち着いて、立ち話もなんだからドコかに入りましょ。女同士の方が盛り上がるから男性陣は待機で」
「えええええ!突然の死亡フラグ!!」
「あ、でも皆さんも買い物に来てたんじゃ…?」
「あ!そう!そうなんだよ!文化祭の買い出しに!!ほら僕達も早く買い出し済ませよう!!」
「…文化祭?」
「…っ」


なんか、今かっちゃんが反応した!?なんかNGワードでもあったのか!?


「…かっちゃん、文化祭、あるの?」
「……」
「一般公開も…あるの?」
「……」
「(あっやばい!かっちゃんの機嫌が…)」
「雄英の文化祭は招待制なのよ。各生徒5人まで招待できるの。じゃないと来客がとんでもないことになるからね」
「そう…なんですか…招待されないといけないんですね…」
「(かっちゃん…まさか…)」
「爆豪ちゃん彼女さん招待してないの?」
「ええっ!まさか!」
「爆豪オメー!最低なやつだな!普通彼女呼ぶぞ!なんならオイラがその子招待して…」
「アァ?」
「…招待してやるって上鳴が言ってたぞ」
「ゥェイ!?」


だんだんとかっちゃんが普段通りの威圧を放つようになってきた…
これは、そろそろ本気でヤバイかもしれない!


「キャンキャンうるせーんだよ。俺の勝手だろうが」
「………」


視線を下げて何も言わないナマエちゃんがもの寂しい目をしてる。
多分かっちゃんにも考えがあるんだろうけど…


「…行くぞ」
「あ、まってかっちゃん。みなさん、お邪魔してスミマセンでした」
「ううん!うちらこそデート邪魔してゴメンネ!」
「また会いたいわ」
「はい、私も…。出久、またね」
「うん…」


さっさと歩き出してしまったかっちゃんに、必死に追い付くために小走りで走って行くナマエちゃん
かっちゃんに殴られはしなかったものの、本当に二人の邪魔しちゃったみたいで心苦しい。


「彼女さん、ええ子なのに…」
「そうね、爆豪ちゃんももう少し大事にしてあげた方がいいかもね」
「めっちゃ可愛い子だったけど、なんで敬語だったんだ?」
「緑谷と爆豪には普通だったな」
「あれ、そういえば…」
「礼儀を重んじる才識ある子なんだろう!」










あれから、かっちゃんの顔をまともに見れない。
それどころか、なんだか気まずくて隣に立つことさえ出来ない。
かっちゃんの半歩後ろを置いていかれないように歩くだけ


「かっちゃん、あのさ、」
「……なんだ」
「…んーん、やっぱりなんでもない」


買い物の時までは手を握ってくれたのに
私が、文化祭のこと聞いちゃったから怒っちゃったんだろうな。

文化祭があるなんて聞いてなかった
招待制だなんて知らなかった
かっちゃんは私に来てほしく…ないんだろうな

寂しい、けど、大丈夫。仕方がないって我慢できる
かっちゃんが嫌がることしたくない
嫌われたくない、から



「文化祭」
「え?」
「来てぇのか」
「……かっちゃんが嫌なら、行かないよ」


本当は、かっちゃんがいつもどんなとこで授業をしてるのか見てみたい
本当は、今日会った子たちみたいに、私の知らないかっちゃんの友達に会ってみたい
本当は、かっちゃんと、一緒にいたいよ

かっちゃん、ほんとうはね
わたし、



「泣きそうな面して言ってんじゃねーぞ」
「…だって、かっちゃん、」
「まだ何も言ってねーだろ。来んなとも来いとも言ってねえぞ」
「え?」


クルッと踵を返して私と向き合う
大きな、大好きな手で私の頭をガシガシと撫でる
髪の毛グシャグシャだよ


「かっちゃん?」
「条件がのめたら、な」
「え?」
「ゼッテー俺から離れんな。来る時も1人で来んな。デクんとこのおばさんか俺の親と来い」
「う、うん」
「帰りもだぞ」
「わ、わかった」
「俺は出し物には参加しねぇからな。クラスの奴らがメンドクセェから俺のクラスんとこは回らねぇぞ」
「え…」
「そん代わり、他の好きなとこ付き合ってやる。ただし他の奴らとは話すな目も合わせるな」
「えぇ…」


その後も出るわ出るわ
服装や髪型の指定やら、持ってくるもの、持ってきては行けないもの…
お小言にも似たお説教も少し


「ぼーっとしてっと何に巻き込まれるかわかんねぇからな」
「そんなに危険な学校なの?」
「お前が無防備なだけだ」
「えぇ…」
「嫌なら呼ばねえ」
「ん、わかった、全部守るよ。だから…行ってもいい?」
「……当日その顔も禁止な」
「えぇ!?……わかんないけどわかった」
「よし、…なら招待してやる」
「っありがとう!かっちゃん、大好き」
「っ!」



爆豪勝己の糸++
俺だけのもんだ

リクエスト:爆豪勝己の糸+ 続き・A組との絡み


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