3月も中旬に差し掛かった頃、もうすぐ春休み、その後は学年が上がるともあって学校中の生徒は浮き足立っている。
今年は暖かくなるのが早いのか、日中にもなれば日差しが心地よくなる。


「今年はぜんぜん雪降らんかったねぇ」
「土地柄ってのもあるけど、この辺はさっぱりだったねぇ」


朝、お茶子ちゃんと偶然会ってそのまま一緒に登校の最中、のんびりと内容のないような会話をしていく。
こういうまったりとした感じも癒やされていいなぁ


「もうすぐ春休みだねぇ」
「そうだねぇ」
「お茶子ちゃんはどっか行くのぉ?」
「特に予定はないのだよぉ」
「私もだぁ」
「一緒だぁ」

「なにその気の抜けた会話!」
「お二人とも朝からだらしないですわよ!もっとシャンとして下さい!」
「あ、三奈ちゃん百ちゃんおはよー」


教室前についた頃、何故か教室の前で待機している二人にツッコまれる。
いやいや、これが私とお茶子ちゃんのテンポなのだよ
あれ、てか二人の後ろにもうちの女子達が…


「みんなどうしたの?中はいらないの?」
「それがですね…」
「委員長がー!入れてくれないの!!」
「あ、透ちゃんおはよー」
「おっはよナマエちゃん!お茶子ちゃん!ねぇ聞いてよ!なんでか女子だけ入れてくれないんだよ!!」
「男子が中でなにか企んでるみたいね」
「どーせまた下らないことしてんでしょ」
「梅雨ちゃん、じろちゃんおはよーう。委員長もおはようー」
「おはよう!随分と気が抜けているな!だがしかし中に入れるワケにはいかない!委員長として!!」
「何が だがしかし なの?」


教室のドアの前を陣取ってセコムってる飯田くん。
なにか使命感のようなものを感じるけど、一体何を吹きこまれたんだ…


「ねぇ、どうしたの?教室に入れないと授業できないよ?」
「ぐ、それはイカン…だが!問題ない!授業が始まる前に片付ける予定だ!」
「片付ける?中で何かしてるの?」
「!!ミョウジくん図ったな!なんという巧みな話術!!」
「飯田くん、君、門番向いてないね」


ちょっと突けばポロッと秘密を漏らしそうな門番だな!


「もう少し!もう少しなんだ!!それまで女子は中に入れられない!」
「…仲間はずれは良くないなぁ、寂しいよ」
「ぐ!」
「飯田くんはそんな事しない人だと信じてたのになぁ」
「ぐぬ!!」
「…入れてくれないの?」
「ぐぬぬぅ!!!」

「うわーナマエえげつない」
「ナマエちゃんって結構演技派ね」
「その調子ですわ!ナマエさん!!」


あとひと押しで崩落する!といったところで飯田くんの後ろのドアが少し開いた。


「ミョウジが卑猥なこと言ってると聞いて!」
「言ってない」
「ドコにナニを入れて欲しいってぇえ!!?」
「峰田!オメェドア開けるときは合図しろって言ったろ!?委員長もびっくりしてるじゃねーか!!」
「大丈夫だ上鳴くん!俺は何も見ていない!何も!!」
「いや、おめえがじゃなくて女子に見られたらまずいんだっての!」


峰田の行動は予想外だったのか、中が騒がしくなっている。
何か変な感じするけど…


「教室で何して……っ!」

「あーあ、しゃーねぇ!ほぼほぼ終わってっし、もうお披露目しちまおうぜ!!」
「計画が狂ってしまった…すまない皆…」
「委員長のせいじゃねーだろ!んじゃ改めて…」



「「「じゃーーーん!ハッピーホワイトデー!!」」」


上鳴くんや切島くん瀬呂くんが一斉にドアを開け放つ。
視界に入ったのは普段の教室ではなく…



「え、なに、…雪!!?」
「ぅえええええ!!?なして!?なして教室が雪景色に!?」
「すっっごーーい!!雪だーーー!!!積もってるー!!」
「室内になんてことを…」
「いや、そこじゃないだろ」
「派手なことするねー!!てかホワイトデー忘れてたわ!」
「なかなか粋なことするわね」


教室中に真っ白の雪が降り積もってる。ってか現在進行形で降っている…これって…


「良い反応だな」
「コレって轟くんの…?」
「考えたのは他の奴らだけどな」


見回してみれば、机等は教室の隅に置かれ大きな布とセロハンテープで保護してある。
なるほど、コレなら教材がどうにかなることはない。


「大変だったんじゃない?机動かしたり教室中凍らせたり」
「分担したからそれほどでもねぇよ。一応”お返し”だからな」
「雪だけじゃねーぞー!!」


切島くんがそう言って他の男子と何かを配り始める。
手元に渡されたモノを見ると


「雪だるま?かわい…え!これマカロンじゃん!!!」
「えぇ!!ままま、まさかこれって」
「もちろん手作りだぜ!!!」


マカロンを手作り…だと…?


「女子力たっか…!!」
「しかも作ったのは口田と砂藤と緑谷と爆豪だぜ!」
「ええええええっ!!」
「るっせー驚きすぎだろうが」
「うわっ!」


いつの間にか直ぐ後ろに回っていた爆豪くんに頭を鷲掴みされる
照れ隠しなのか、絶対に顔を合わせようとしない彼が、このニッコリスマイルの雪だるマカロンを作ったのかと思うと、なんだか大変可愛らしい。


「器用だね爆豪くん、お菓子屋さんになれるんじゃない?」
「アホか、こんなん材料混ぜて焼くだけだろうが」


今、この場にいる何人かの女子が寒さ以外の理由で固まったぞ。
無意識的に人を煽るのはもはや才能だね!


「かわいくって食べれないよ」
「食えよそこは」
「なんでマカロンにしたの?」
「…るっせ、意味なんかねえ」


そう言って髪の毛ぐしゃぐしゃにしていくのも忘れずに離れていってしまった。


「本当はね、クッキーにする予定だったんだ」
「あ、緑谷くん。これありがとうね!」
「うん、ほとんどかっちゃんが作ったんだけど…昔から何でもできたからなぁかっちゃん」
「器用な人って本当になんでも出来るんだねぇ」


しみじみと手の中の雪だるまを見つめる。ピンク色のほっぺとか、細かいとこまで手が込んでいて頭が上がらんわ…


「えっと、なんだっけ?クッキーの予定だったんだっけ?」
「うん、そうそう。みんなで買い出しの時にかっちゃんがいきなりマカロンにするって言い出して…マカロンなんてその場に居る人のほとんどが作ったこと無かったし、見る機会も少なかったから反対したんだけど絶対譲らなくてさ」
「ああ、目に浮かぶわ。そのいきなり意見しだす感じ」
「かっちゃんはそれがデフォルトだからねぇ。大変だったけど、上手くいってよかったよ」


遠い目しながら語る緑谷くん。苦労…したんだろうな。


「ねぇねぇ知ってるー?ホワイトデーのお返しのお菓子にはそれぞれ意味があるんだよ!」


余程嬉しかったのか、手に持ったマカロンを頭上に掲げて楽しそうに雪の中ではしゃいでいる透ちゃん。
手が透明だから雪だるまが踊っているようにみえる。


「それ知ってるー!クッキーが友達で、キャンディが本命ってやつ!」
「そうそう!マシュマロは嫌い!ってやつ!マカロンはねー”特別な人”って意味なんだよ!!」
「あら、なかなかロマンチックね爆豪ちゃん」
「意味を存じ上げてるとは思えませんが、気の利いた計らいですわね」
「いっそ来年のバレンタインは男子に作って欲しい勢いやね」

「なんなんだおめぇらケンカ売ってんのか、ァア!?」
「だぁー!そうじゃねぇって!!ちゃんと喜んでんだからいいじゃねーかよ!」


相変わらず切島くんは爆豪くんのフォローが上手いね。


「ミョウジ」
「ん、なに?轟くん」
「これ、やる」


そう言って小さな小包を渡してきた轟くん。ことわりを入れて包みを開けてみると、中には雪を思わせる真っ白なコロコロとしたマシュマロが幾つか入っていた。


「…この流れでマシュマロ渡すってなかなか勇気いるよ轟くん」
「…チョコ入りだ」
「?まぁマシュマロもチョコも好きだからありがたく頂くよ?意味は深く考えないようにするね!」
「……それなら、それでいい」


何やら言いよどんでる様だけれども、委員長の「そろそろ片付けよう!」の一言で雪を溶かす(と言うか最早蒸発させる)作業に移ってしまった。
手元のマシュマロが溶けないか心配だ。


「そういえば、チョコの入ったマシュマロにも何か別の意味があった気がするんだよねー」
「なにそれ覚えてないの?」
「うーん、なんか難しくてよく覚えてないんだぁ」
「なにそれ」


後ろで机を戻す作業を手伝っている透ちゃんとじろちゃんの会話が耳に入る。
チョコ入りマシュマロまさに今貰ったんですけど。家に帰って覚えてたら調べようかな。
まぁ、そういうのって大体忘れちゃうんだけどね。


「雪もマカロンも凄かったね!ナマエちゃん!!」
「そうだね!忘れられないホワイトデーだね」
「来年のバレンタインも負けてられないね!」
「ハードル上げるのは止めようよお茶子ちゃん!!?」


最後の方には学校中巻き込んだイベントになりそうで怖い!



素敵な素敵なホワイト
貰った気持ちを純粋な愛で包んで

ネタ提供リクエスト:テレポ少女でホワイトデー。カレンダーの見方がわからなくなったワケじゃないです。スミマセン。スミマセンでしたぁ!!


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