「いつものとこ?」
「…ん」


正月も終わって年始の浮足立った雰囲気も大分収まってきた頃、私と焦凍は近所のお食事処に向かって歩いている。


「毎年思うけどさー、夕食はもっといいとこの蕎麦食べるんでしょ?昼間は別のもの食べたら?寿司とか」
「別に、いつもんとこでいい」
「そー?どっちみち私が払えるとこだから、何食べても一緒かもしれないけど」


1月11日、焦凍の誕生日
高校生になってバイトを始めたあたりから、毎年焦凍に誕生日プレゼントとしてお昼ご飯をご馳走している。
もちろんちゃんとしたプレゼントも用意している。安物だけど。


「私は何食べようかなー。今年は焦凍と同じものにしようかな。」
「好きなの食えばいいだろ。」


お店までの道中、他愛もない会話を続けていく。
雪は降ってないものの、1月の冬の寒さは結構堪える。


「うー、寒いね。やっぱマフラー持ってくればよかった」
「なんで俺の家に置いてくんだよ」
「轟家暑すぎるんだよ、おじさんとか焦凍のせいで」
「クソ親父と一緒にすんな」


相変わらずおじさんと上手くいってないようだ。君の反抗期はいつまで続くんだい。
…言うと拗ねるので黙っとく。最近は説教まで始まるからたちが悪い。ってかおじさんに似てきたんじゃない?


「お前、考えてること顔に出すぎだからな」
「…こわっ!」

エスパーかよ!






お店の奥のいつもの席。窓の近くだから少し寒いけど、店主こだわりの中庭が見えるのでこの席は私と焦凍のお気に入りだ。
いつものせいろ蕎麦を今年は2人前。私達の前に1つずつ。特に変わった光景でもないのに、なんだか特別のように見える。


「いただきます。」
「いただきます。」

珍しく綺麗に割れた割り箸が気分がいい。今年はいいことありそう。焦凍は…ちょっとアンバランスに割れたみたいだ(珍しい)。


「今年も…忙しくなりそう?」
「さぁな、俺に聞くなよ」


そりゃそうだ。ヒーローなんて決められた仕事ばかりじゃないもんね。年末年始もいない日のほうが多かったし。
ヒーローになってから会う日も、時間も少なくなってる。別にいいんだけどね。焦凍が成りたいものに成れたんだから、私はそれで十分だ。

そう、私は今日それを伝えようと思ってきた。

高校に上がって暫くして、どちらともなく恋人同士になった。
(ってことになってるけど、実際は相当もめた結果焦凍の押し切りで決着がついた)
もちろん私も焦凍が大好きだけど、いつまでもこのままじゃいけないって分かってる。

私もいい大人だ。今や大人気ヒーローとなった焦凍の側に居ていいほど立派な人間じゃない。
つい先日、焦凍の同級生だった…なんだっけ上鳴君だっけ?が女性問題で週刊誌に載ったばかりだ。(3股だかなんだかで。焦凍は「アホは治らねぇな」って言ってたな)
別に私と焦凍は不倫とかそういうのじゃないけど、やっぱり世間的に見て平凡すぎる私と焦凍とは釣り合いがとれない。
そろそろ、ケジメを付けないといけない。焦凍にはトップヒーローに見合う女性と一緒になるべきだと。


「しょう、と、あのね、」
「今夜、空いてるか?」
「…え?私?今夜? あい、てるけど」
「お前も来い」

人の話途中で切るの、良くないよ!ときどきいきなり自分の話しだすよね

「今夜はおじさん達とご飯じゃないの?毎年夜は家族で過ごしてたじゃない」
「今年からナマエも一緒に来い」
「どうしたの?じゃなくて、私の話…」
「お前、考えてること顔に出すぎなんだよ」


え?


「くだらない事考えんな。」
「っ、しょ、焦凍?」
「……」


目の前の色違いの目が、射抜くようにこっちを見ている。
どうしよう、なんだか胸が痛くて顔を合わせられない。まさか気付かれてたなんて…


「もう俺といたくないか」
「…ち、がうよ」
「もう待っていてくれないのか」
「……まって、いたい、…け、ど」

喉の奥がつまる、目が熱くて
ダメだ、泣いちゃダメだ!


「っ、しょうと…私ね…」

震える唇を一度強く噛んで、開く。自分の口で伝えなきゃいけない、そう思った時に左手に温かい感触。
昔よりずっとずっと大きくなった、私の手を覆い隠すぐらい逞しい焦凍の手。
泣きそうな私を慰めるように撫でた後、ゆっくりと私の薬指にその長い指を絡めた。
何もはめられていない指の付け根を、何度も、何度も大事そうに撫でる。


「…待ちくたびれたか?」
「……」


そう聞いた後、グッと指ごと手を握られる。少し痛いぐらいに。
一度ゆっくり目を伏せた後、今まで以上に強い視線を向けて


「逃さないからな、絶対に」
「っ」

胸の奥のずっと奥のほうが熱くなった
昔から、私を泣かせるのが上手ね


轟焦凍の誕生日に
今夜とんでもない値段の指輪が、この指に


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