「…轟くん大丈夫…じゃないよね。本当にごめんね!」
「…ああ」
「ミョウジ、あんま反省してないだろ」
「元はと言えば峰田が悪いでしょ!」


事の発端は峰田がまた演習中にセクハラしてきた事にある。
普段は注意して終わるけど、今日は堪忍袋の尾が切れてブン殴ってやろうと思ったんだ。
私のお尻付近でモソモソ動いてるのを確認して振り返って思いっきり拳を振りかざした瞬間、何かを察したのか咄嗟に峰田が避けて(コレだけでも相当イラつく)、あろうことか近くで座って休んでいた轟くんの顔にクリーンヒットしてしまった。
いやー、ね、本当、すっごいイイ音したわ。申し訳ないけど爽快な右ストレートだったわ。

しかも当たりどころが悪かったのか、とんでも無いことになってしまった。


「まさか轟が鼻血出すとはなー。レアなもん見たぜ!」
「峰田が避けなければ何の問題もなかったの!」

まさかイケメンさんの顔面強打して鼻血出させる日が来るとは思わなかった。
轟くんも一瞬何が起きたのかわかんないって顔してたな…いや、誠に申し訳ない。


「轟くん…本当に…ごめんね…私、私…本当っ、なんてっことをっ…ふっ!」
「ミョウジ、笑ってるの誤魔化せてねえぞ」
「ぐっ、ご、ごめっ…ほんとっ悪気はっ!ぶふっ!」
「てめえ…」


普段クールでイケメンな轟くんが鼻血とかシュール過ぎてさっきからツボに入ってしまっている。
いや、全然笑い事じゃないってわかってるんだけど、1度笑い出すと止まらない現象ってあるじゃない?
笑っちゃいけないってわかってる分余計に笑ってしまう。
もうやだ、お腹痛くて苦しい!!


「ごめっ、ごめん!もうやだ!お腹痛いっ!」
「笑いすぎだろ、いい加減にしろ!」
「ぐっわっ!」


なんかアヒルみたいな声でちゃったけど未だに笑いが止まらない、もう顎痛くなってきそう


「おいっ!轟!女子に馬乗りはねーって!気持ちはわかるけどよ!」
「るせえ。外野は黙ってろ」


側で傍観していた切島くんが私に馬乗りした轟くんの止めに入った。
確かに女子に馬乗りはヤバいけど今回ばかりは私が100%悪いから仕方ないと思う。


「あはははっ!ヤバい笑い止まんないー!」
「ミョウジ!オメーもいい加減にしとけって!」
「ごめんごめんー!でもっとまらなっ!」
「そのまま笑い死ね」
「やーーッ!!」


轟くんもキレてしまったのか、馬乗りの状態で私の脇腹をくすぐってきた。普段なら恥ずかしがる格好かもしれないけど、今の私にそんな余裕はない。
もうダメだ笑い過ぎて苦しいっ!!


「ぃやーー!あははははっちょやめぇ!あははは、ん、は、あはは!」
「轟止めろって!絵面が!絵面がヤベェぞ!!」
「確かに鼻血出しながら女子に馬乗りして悪戯とか、オイラも出来ない芸当だ…!」
「全部こいつが悪りぃだろ」


確かに私が悪い!でもこれハタから見たら轟くんが変態にしか見えないんじゃないだろうか?
私も笑い過ぎてさっきから全身に変な汗かいてきたし、涙も出てきた。もうそろそろ本気でヤバいわこれ


「あっ、あっ、ふふっ!ん、あはっ!」
「………。」
「轟、お前の考えてることオイラよくわかる。でもな、とりあえず鼻血はなんとかした方がいいぞ!ミョウジがオメェの返り鼻血まみれになってるからな!」
「あの出血量ヤバくね!?オレ、先生に言って保健室届け貰ってくるわ!」
「オイラも行くわ!この地獄絵図は耐えらんねえ!」

切島くんと峰田が先生のいる方向に走っていく。
残されたのは頭がおかしくなったように見える2人のみ。ああ、もう本当になんでこうなったし


「ふっ、ごめっ、ねっ」
「まだ治んねえのかよ」

確かに切島くん達が居なくなった辺りからくすぐりは止まっている。
それでもまだ余韻が残っててどうしようもない。少し落ち着いてきてはいるけど


「ん、もうちょっとで止まりそ…」
「………」
「?わっ…」


こちらの様子を伺っていた轟くんがいきなり顔を近づけてきた。
頭突きでもされるのかと思って身構えて目を瞑った瞬間、口の中が鉄臭くなった。


「んん!?んんんん!!?」
「…は、…鉄くせえ」
「そりゃそうだ、って、轟くん口の中も切れてたの!?」
「なかなかいいヒットだったからな。避けられなかった俺も悪いが」


いや、どう考えても私が悪い!
どうしよう、思った以上に彼は重傷かもしれない!


「頭は大丈夫!?」
「少なくともお前よりはな」
「違くて!クラクラするとかない!?」

何気に毒吐かれたけど、今気にすることじゃない!遅過ぎるけど、彼の容態を見ないと


「鼻と、口と…あと他に痛いとこある!?首とか頭とか!」
「大丈夫だ、口ん中と鼻の奥が鉄臭くて仕方がねえぐらいだ」
「うっ、ごめん!」
「大丈夫だ、もう血も止まったみてえだ」
「本当?でも怖いから一応保健室行こ?」

未だ上にいる轟くんに退いて貰おうと軽く押すけどビクともしない。

「轟くん、大丈夫?歩けなそう?」
「いや…」
「じゃ、立てる?私達も先生のとこ行こう」
「…今は色々とマズイ」
「?……!」
「責任は取ってもらうぞ」


轟くんの顔から上は重傷だけど、なぜか轟くんの轟くんは絶好調の様だ
何故こうなったし!何故こうなったし!!

「ちょ!待っ!」
「まずは切れた口の治療でもしてもらうか」

また私の口の中も鉄臭くなる
切島くん!峰田!早く戻って来い!!



轟焦凍に右ストレート
イケメンの顔は大切にしよう


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