「おーい切島あ!B組の子が呼んでんぞー!女子だ女子!」
「え?俺!?」

軽くA組のクラス内がざわめく。うわぁなんか面倒臭そうな事になってそう。

「えーっと。俺が切島だけど合ってる?」

教室の中央から赤い髪の少年が駆け寄ってきてくれた。そんな急がなくても良かったんだけど

「うん大丈夫だよ。って言っても私代理人なんだけどね」

目の前の少年、切島くんとA組内の何人かが「え?」って顔した。うん、予想通りの反応。

「ふふ、私ねテツの代わりに切島くんに国語辞書返しに来たの。アイツ今先生に呼ばれちゃってさ。A組次の時間コレ使うでしょ?」

はい、と切島くんにやや強引気味に辞書を手渡す。その頃には大半の生徒が私に興味を失くしたようだ。
好奇の視線が無くなったことで、多少息がしやすくなった気がする。

「あ、サンキューな。てかテツって…」
「鉄哲徹鐡。私いつもアイツの事テツって呼んでるの。”テツテツ”だと苗字か名前かわからないでしょ?テツだとなんか仲良しな感じしない?」
「なるほどな!俺も次からテツって呼ぶかな!」
「ふふ、この呼び方流行らせたいから是非使って!」
「まかしとけ!…えーっと」

気の良さそうな彼の顔が少し困ったように私を見てきた。ああ、そういえば

「ごめんまだ名前言ってなかったね、私、B組のミョウジナマエ。」
「ミョウジさんか!辞書ありがとうな!」
「………」
「…?」
「ナマエって呼んでくれないの?」
「え?あ、ああ、名前の方がいいならそう呼ぶぜ!」
「ふふ、ありがとう。同い年だし呼び捨てで構わないよ」
「んじゃナマエだな!改めてよろしくなナマエ!」
「よろしくね切島くん」

教室の前でいきなりの自己紹介と握手。はたから見れば何ともおかしな光景だ。
でも切島くんは気にせず満面の笑み。凄くいい人なんだって事が伝わってくる。

「俺も呼び捨てでいーぜ!てか好きに呼んでくれ!」
「んー、じゃ、鋭児郎で。いい?」
「もちろん!」
「…ついでで悪いんだけど、1個お願いしてもいいかな?」
「おう!なんでも言ってくれ!」
「本当!?…それじゃあ、英和辞書…貸してもらえないかな?昨日予習したら家に忘れちゃって」
「いいぜ!今持ってくるから、ちっと待っててくれ!」
「ありがとう!」

来た時よりも早足で教室のロッカーに向かう彼。うーん本当にいい人だなぁ!

「コレでいいか?」
「ありがとう!私他のクラスに知り合いいないから凄く助かる!」
「これからは俺が貸せるな!」
「テツ共々お世話になります!あ、貸してもらうだけじゃ悪いから今度お昼ごちそうするよ!」
「え!いいのか!?」
「テツと割り勘だけどね。食べたいメニュー考えといてね!」
「おう!めっちゃ楽しみにしてるな!!」

会って間もないのに会話が弾む。コミュ力高いってこういう人のこと言うんだろうなぁ。

「鋭児郎と会えて良かった」
「え」
「テツもそうだけど、個性”硬化”の人っていい人達ばっかりなのかな?そういう人、大好きよ!」
「!!」
「あ、予鈴なっちゃう。じゃあまたね鋭児郎!辞書ありがとう!」

借りたばかりの辞書を抱いてA組を去る。今日はいい人とお友達になれたなあ!テツに感謝!


「切島お前口説かれてた?」
「ちっげーよ!」
「B組にあんな可愛い子いたんだなー。俺今度メシ誘っていい?」
「ゼッテーだめだ!」



切島鋭児郎の予感
これから少しずつ育つ感情


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