「轟くんいます?」
「うん、いるよー、轟くーん!B組の子が呼んでるよー!」

クラスの出入口付近から名前を呼ばれる。聞こえてるから大声で呼ばないで欲しい。

「…ミョウジか。委員会か?」
「そうそう、今週ある委員会会議の事で話があって…今大丈夫?」
「ああ」

B組、隣のクラスの女子生徒 ミョウジナマエ。俺と同じ委員会に所属している。
同じ一年のヒーロー科ということでよく行動を共にしている。
最近では教科書の貸し借りだけでなく、昼食を共にするのもしばしば。と言っても週に1度会えばいい方だ。
LINEやメールでは頻繁に連絡を取り合っている。
というか、俺が一方的にアプローチ中だ。
まだ気持ちは伝えていない。彼女は随分と鈍いようで、俺のアプローチもガンガンスルーしてしまう。彼女と出会ってから俺の精神は随分と鍛えられたんじゃないだろうか。


「それで、委員会のことなんだけど…」

ナマエが話している傍ら、日課の彼女観察を始める。会うのは週1でも、毎日のように彼女を観察している。
今日は普段より髪がまとまっている。昨日と違って寝坊しなかったんだな。
そういえば少し前にシャンプー変えたな。
唇が荒れると言っていたからなのか、リップクリームも変えたようだ。今回は色付きか。かぶり付きてえな。
そっと頬に触れて顔を上げさせ、俺だけを見つめさせたい。驚き何も言えない彼女の唇に噛み付いて、口の中を蹂躙させて、髪を好きに撫ぜ、首を身体を舐めまわし、白く暖かな柔肌を好きに…


「…ということなんだ。だから会議が始まる前に一旦合流していこう?」
「ああ、わかった」

脳内でナマエを好き勝手にしていると、現実の彼女の話が終わったようだ。もちろん話はすべて聞いている。
俺が、顔色一つ変えずに脳内でナマエを犯していると知ったら、彼女はどうするのだろう。
きっと二度と話してくれない、それどころか視界にも入れてくれない可能性もある。
昔から表情が乏しいと言われてきたが、こんなところでそれが役に立つとは思わなかった。

でも、まぁ男なんて皆こんなもんだろ。峰田ほどオープンな奴が逆に羨ましいぐらいだ。


「轟くん、また何か考え事してたでしょ」
「…え、いや」
「私と話してる時、よく上の空になるよね。ちゃんと話は聞いてるみたいだからいいけどさぁ」

しまった。あまりにも脳内展開に集中しすぎていたらしい。
彼女の視線がいたたまれない。大丈夫だ。彼女の個性は人の思考を読み取るものではない。決して俺の脳内を覗かれたわけじゃない。


「もしかしてエッチな事でも考えてた?なーんて!」
「っ!」
「………え」
「違うっ」
「あーーーー、うん。大丈夫だよ」

大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。クソッ油断した!


「違う、…少し考え事をしてただけだ」
「うん。大丈夫。轟くんがそんな変な人じゃないってわかってるから」


今、頭を鈍器か何かで打たれたような…強い衝撃が走った…気がする


「じゃ、またね!」
「ああ」


変?俺は…変なのか?




「緑谷、ちょっといいか」
「えっ!あっ轟くん。どうしたの?」
「ちっと相談したいことがあるんだが…」
「相談っ!?僕に!?轟くんがっ!!?」
「…ああ、帰りいいか」
「うっうん!いいよ!」

相談する相手間違えたか…?いや、だがこの手の話は絶対に口の固い奴じゃないとな。
……少し心配だが。まぁそこまで仲の良い奴多くないからな。緑谷は頭もキレるから問題ないだろう。



「で、相談って…?」

学校帰りのファミレス。駅からは反対方向の方に来たから客も疎らだ。一応周りに学校の生徒や関係者っぽいやつがいないか確認しておく。


「緑谷は、好きな女はいるか」
「ブッ!っふぇ!!?なななんあ!え!なにいきなり!!!」
「俺はいる」
「ええ!?あ、そ、そうなんだ」
「…意外か?」

緑谷の焦り様が酷い。客が疎らでも落ち着かなくなるほどだ。

「(やっぱ人選ミスったか?)」
「あっ、ごめん、意外っていうか、轟くんこの手の話は興味ないと思ってたから」
「…俺も年頃だぞ」
「そうだよね、うん、全然おかしくないよ!人を好きになることはとても素晴らしいことだよ」

なんか要点ずれてる気がしなくもないが、とりあえず話を進める


「えっと、僕なにか協力した方がいいのかな?」
「いや、そうゆんじゃねえ。緑谷お前、仮に好きな奴が目の前にいたとしたら何考える?」
「え?なにって…ん?」

暫く緑谷の動作が止まる。色々考えているのか顔が赤くなったり青くなったり…忙しいやつだ。

「えぇっと、かっ可愛いなとか思うかな?」
「…それだけか」
「…轟くんは、違うの?その、好きな子の前で考えること」
「違くはねえな。ただ、すぐ犯しちまう」
「ハッ!?」

今日一番でかい声が出たな。顔も、つーか身体全部赤いな。おもしれぇ

「俺は、これが普通だと思ってたんだが。」
「いやっ、うん、それは…なんというかデリケートなとこと言いますか…ええと」
「まぁあんまホイホイ話すような事じゃねえな」

だからこその相談だ


「轟くん、誰かになにか言われたの?」
「…まぁ本人にな」
「え」
「話したわけじゃねえぞ。ただ、そういう変なコト考えない人だって言われてな」
「うーん、信用されてるんだね」

信用?そういう問題なのか?


「すぐ頭の中で好き勝手しちまうのは変なことか?」
「うーん、いや、僕達思春期だし、その…過度な妄想というか、日常の合間に非日常を組み込み色々と発散するのはよくあることだし、脳内でなら周りに影響は出ないし、というよりそれなりに脳内で発散させないと実際の私生活に影響が出やすくなって結果少年による性犯罪が起きてしまうという良くない結果が生まれる可能性も…」
「いい、わかった。俺は変ではないんだな?」


緑谷はほっとくとブツブツと思考が駄々漏れになるクセがある。見てる分には面白えんだがな。

「あ、うん、そうだね。内容にもよるけど、よくあることだと思うよ」
「そうか」

とりあえず俺は異常者ではないようだ。それを知っただけでも相談したかいが合った。

「轟くんがそんなに気にするなんて、よっぽど好きなんだね。どんな子なの?」
「…同じ1年だ。委員会が一緒で知り合った。最初はそこまでじゃなかった…と思うが、気がついたらハマってた。毎日連絡してるし、そいつの1日の行動は大体把握している。最近寒くなったからか寝坊が増えたみたいだ。ときどき髪に寝癖ついてんのがすんげえ可愛い。シャンプーも最近変えたな。俺は前のも好きだったが、今のも悪くない。近くにいる時とかすっげえムラムラする。あとリップも変えたのか口が美味そうだ。あれクラスメイトも見てると思うとムカつくな。最近買ったスタンプが気に入ったのか、LINEで頻繁に使ってくるな。そういうとこも可愛いと思う。あと…」

「(うわあ、ヤバイ轟くんが止まらない!っていうか)」



轟焦凍の相談
なんかストーカ…いや、僕は応援してるよ!


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