「おとーさん!いつもありがとう!」
「…これは」
「幼稚園で作ったんですって。父の日の似顔絵。よく出来てるでしょ?」


凍優が持つと大きすぎる画用紙を両手いっぱいに掲げて帰ってきた焦凍に見せる。
白と赤でいっぱいに塗られた画用紙。
あどけないモミジのような小さな手で一生懸命描いたのかと思うと、胸の底からほっこりしちゃう。

「よく、描けてるな、父さんよりも上手だ」
「ほんとう!?」
「ああ」
「(ああ、このデレデレの顔、同級生たちに見せてあげたいわぁ)」


焦凍が帰ってくるまで頑張って起きてたかいがあったね


「おかーさん!おかーさんといっしょにかざって!」
「そうね、お母さんの隣に飾っておきましょうね」


一ヶ月ほど前には同じように私の似顔絵を描いてきてくれた。
もう、この子の成長が嬉しくてちょっと泣いちゃったんだよね。


「ついこないだまでは、歩くのもやっとだったのにな」
「いつの話してるのよ、凍優今じゃクラスで一番脚が速いのよ?ねぇ凍優」
「うん!きのうもいちばんだったよ!!」
「そうか、凄いな凍優は」


我が子の頭を覆ってしまうほどに大きな手で優しく撫でる焦凍。
凍優はもう眠くて仕方が無いのか、顔がトロンとし始めている。


「おとーさん、だっこ、」
「おいで」


私と違って軽々と我が子を抱き上げる彼。
普段仕事で家を空けることも多く、凍優との時間は私よりも圧倒的に少ない。
仕事柄、仕方のない事かもしれないけれど、きっとこの子も寂しい思いをしているのだろう。


「おとーさん、ぼくおとーさんだいすき」
「ああ、父さんもだ」
「おかーさんもだいすき」
「お母さんも凍優が大好きよ」
「おじーちゃんもおばーちゃんもすき」
「……ああ、…父さんも、だ」
「明日おじいちゃん家に行く約束してるのよね、楽しみね」
「う、ん、たの、し…」
「…ふふ、寝ちゃった」


返事途中で眠ってしまった凍優をそっとベッドまで運ぶ。
寝室から出る際にドアからそっと我が子を見守る彼は、どうしようもなく父の顔だ。


「無理して起きてたのか」
「今日はお父さん遅くなるから明日渡したらって言ったんだけどね。聞かなくて…いつもは寝てる時間だから」
「…そうか、いつも悪いな。任せっきりで」
「何言ってるの、それが私のお仕事です!むしろ凍優独り占めして悪いぐらい。毎日凄いのよ、昨日できなかったことが次の日には出来てたり…見てて楽しい。ああ、でも昔からヒーローニュースであなたが出ると大騒ぎなんだから」
「そうか」
「大好きなのよね、おとうさんがー!おとうさんがー!って知らせてくるの。」
「…そう、か」


はにかんだような、嬉しさを噛みしめるように笑う焦凍。毎日本当にご苦労さまです。


「ナマエ」
「え?」
「俺もナマエが大好きだ」
「っ、なにいきなり…」
「愛してる」
「…知ってる、…私も、大好き、愛してる」
「知ってる」


今度は、ふっと二人で笑い合う。
こんな感じは久しぶりかもしれない。私もあの子と同じ、少し寂しかったのかも。
どちらともなく抱きしめ合い、お互いの体温を受け取り合う。
凍優の高い体温も好きだけれど、この人の少し低めの熱も心地いい
私もあの子と同じで眠くなってしまいそう


「そういえば、明日あなたも行くでしょ?お義父さんの所」
「………」
「凍優楽しみにしてるの、お父さんと一緒に行くんだーって」
「……仕事が、なければ…」
「行くわよねっ、ちょっ!」
「俺は何も用意してねぇぞ」


面白くない話題になったからなのか、少し不貞腐れた様に表情を見せた後、抱き合ったまま近くのソファーに押し倒された。
もう、あの子が起きたらどうするの!


「父の日のプレゼントでしょ?大丈夫、私がちゃーんと用意してます」
「………」
「できた妻で嬉しい?」
「…そうだな、本当に出来た妻だ」
「でしょー?ふふ、お義父さん喜んでくれるといいね」
「俺も一つプレゼントを思いついた」
「え?」


言うと、慣れた手つきで私の服の中に手を入れてくる彼。
ちょっと!なに!


「まって、まだ凍優が起きてくるかも…」
「来年になっちまうかも知れねえが」
「?」
「親父達にもう一人孫の顔を見せてやろうと思ってな」
「……本気?」
「凍優も兄弟が欲しいだろう。俺が出来る最高の親孝行だな」


私の意見は聞き入れないんだろうな
まぁ、いいけど


「私も頑張んないといけないんだけどなー」
「出来た妻だろ?期待してる」
「……もう」







轟焦凍の幸福4
この世で最高のプレゼント




「おじーちゃーん!」
「おお来たか凍優!待ってたぞ!お前の欲しがってたヒーローセット買っておいたぞ!」
「うわーーー!!!おじーちゃんだいすきー!」
「そうか!一番好きか!」
「いちばんすきーー!!」
「ナンバーワンか!」
「おじーちゃん、なんばーわんー!」
「ははは!凍優はわかってるなぁ!!」
「なんばーわんー!」

「あのクソ親父…」
「焦凍落ち着いて、今日は父の日のプレゼント…」
「焦凍!残念だったな!俺がナンバーワンだ!」
「なんばーわんー!」
「このっクソ親父がぁああ!」
「(あああああ)凍優危ないからこっち来なさーい!!」

そしてこれが、あの日思い描いた最高の日常


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