「スターーーーーーート!!」


三つ目のライトが消えた瞬間に周りの生徒が動き出す。
いつぞやの食堂での混乱を思い出させるような人の波に気圧されるが、今回はレース。避難なんてしてる場合じゃない


「(っつっても!人の多さに対してのゲートの狭さ!!)」


ギチギチと一定数しか通れないゲートに設計ミスを感じ得ない!
これもまた障害物の一つってこと!?
いきなりだけどちょっと前の方まで飛ぼうかな…いや、きっと前の方もギチギチで飛べるスペースもなさそうだ。
何の計画もなしにいきなり先頭に立つワケにも…


パキィ
「ん?パキ?」

「ってぇーー!!何だ凍った!!動けん!!」
「寒みー!」
「んのヤロォオオ!!」


色々思案していると聞き覚えのある無機質な音と冷気
ハッと気づいた時には既に巻き込まれた人多数…こんな大規模な事できちゃうのって


「甘いわ轟さん!」
「そう上手くいかせねえよ半分野郎!」
「っぶな」
「二度目はないぞ!」

「滑って怪我するなって…これのこと!?」


轟くんの攻撃方法を知っているA組を始めとして、機転の効く人たちは次々と氷の道を乗り越えていく。
私も巻き込まれぬよう咄嗟に前に飛んでしまった。


「ナマエちゃん!早速飛んできたね!」
「うーん、こんなに簡単に個性使わされるなんて…ちょっと悔しいかも」


飛んだ先付近に居たお茶子ちゃんと合流する。
彼女は自分を浮かす”超必”は使わず回避できたようだ。私も見習わないと


「私はホラ、超必つかちゃうともう使い物になれへんから!ナマエちゃんはリスクがないなら使いまくったほうが有利じゃないかな!」
「リスク…ね」


お茶子ちゃんのように目に見えるリスクはないけれども、確実に体力は消費してしまう。
ここ2週間で自分の限界値を探ってきたけど、どうやら距離に関係なく飛ばす質量で消費する体力が決まっているようだった。
そうなるとより多く個性を使うにはスタミナが必要になるんだけど…


「スタミナって早々つかないよねぇ」
「?」


こんなならもっと筋トレとかしとけばよかった!まあこれから付けてくからいいけどね!ムッキムキになってやる!!


「あれ、でもムキムキになったら質量増えるから自分飛ばすのに負担に…?いやでもその分を補うぐらいムキムキになれば…」
「ナマエちゃん!?なんかデクくんみたいになっとる…って、おわぁ!!」
「ヒィ!誰か飛ばされ…あ、峰田くんか、一体誰に…っ!うわぁあああでたぁあああ!」


前方に見えるのは、懐かしい入試ロボ!またお目にかかれるとは!でも出来ればもう二度と見たくなかったよ!!
しかも更に奥には0ポイントのでっかいヤツ…私初めてアレ見た時泣くかと思った。だってでかいんだもん!
今回は複数台用意されているようで…もう圧巻。只の危険な壁です


「このレース普通科とかも参加してるの忘れてない!?絶対ケガ人でるって!」
「そ、そんなん言うてる場合じゃないよナマエちゃん!」
「そうだよね!ウチラも普通に危険だよ…ね……」


そうこうしている内に現在トップの轟くんが攻撃を仕掛けた。けど、


「えぇええええ、なにそのファンタジーな強さ」


右手を地面に這わせて振り上げたと思ったら最寄りのロボたちが完全氷漬け。魔法?氷魔法ですか?
ズルい、とかは思わないけど、私よくあの人に宣戦布告したな…私も負けないとかよく言ったよ!もう!


「(悔しい、でも、まだ諦めないんだから!)」


一番にはなれないかもしれない、でも、せめて折れずに最後まで全力で挑もう。
そう決意して凍った地面を避けて走りだす。バランスの不安定なロボの下を通るのは危険すぎる。


「あいつが止めたぞ!!あの隙間だ!通れる!」
「あっ!ダメだよ!危なッ!!!」


恐らく普通科の人たちが轟くんが凍らせたロボの下を潜ろうとしている。
今にも倒れそうな体勢だったロボが、彼らが発する少しの振動にでも反応する。


「っ!間に合え!!」


ゆっくりと、でも確実に、凍った障害物が彼らの頭上へと倒れこむのが見えた。









「お、おい、誰か下敷きになったぞ!!」
「死んだんじゃねえか!?死ぬのか この体育祭!!?」
「女の子が走ってった気もするが…」

「あっっぶなーーーー!!ギリ!まじでギリだった!!!」
「!!!?」

『1-A ミョウジ!倒れこむ障害物を前に咄嗟に普通科生徒を救けにいったぁああ!!さすがヒーロー志望なだけあるな!!つか便利すぎだろ瞬間移動ぅうう!!』


ロボが倒れこむ瞬間、ギリギリだけど2人の生徒の手を掴んで危険地帯から脱出した。
上手くいってよかった…


「大丈夫?咄嗟に飛んじゃったけど、どっか気持ち悪いとかない?」

私自身はあまり感じたことはないが、人によっては瞬間的に移動することで気分が悪くなる可能性がある。
なんだろ、ジェットコースターのフワッとしたのに似てるのかな


「…別に、大丈夫だけど。なんで救けたの。パフォーマンスのつもり?」
「え?」
「うちら助けて優越感でも感じたかったのかよヒーロー科!」
「そ、そんなつもりじゃ」
「大体この体育祭だってあんたらの為にあるんだろ!?こっちはとばっちりだっつーの!その上お前らのパフォーマンスに巻き込むなよなっ!!」
「っ私は!そんなゴチャゴチャ考えてしたんじゃない!!」
「はぁ?」


感謝される、とは思わなかったけど、ここまで言われるとは思っても見なかった。人の価値観とか捉え方とか、そういうの色々あるんだと思う。でも、だけど!


「目の前に救けられる人がいたから行動しただけ…動かなかったら絶対に後で後悔する…から」
「…救けた後とか考えなかったのかよ。こうやって文句つけられるなんて」
「考えないよ。…だって自分のためにやったことだもの!やらないで後悔するより、やって後悔したいもの!!」
「!」
「あなた達だってそうでしょ!?ヒーロー科だなんだって言ってるけど、自分たちも頑張ろうって思ったんでしょ!?だからあんな無茶して前に出て…」
「…っ」
「私達、科は違うけど、そんなに違いなんてないと思う。みんな、今やれることを頑張ってる。それだけだよ。」


もしかしたから、今目の前の生徒は私だったのかもしれない。あの入試に受からなくて、ヒーロー科に入れなければ、私がヒーロー科の生徒に同じことを言ったのかもしれない。
そう思うと、何とも言えない気持ちになった。
同じ科の子でも実力の差は大きい。さっきもそれを実感したばかりだ。それでも、諦めたくない。上を目指したい。それって、私がヒーロー科だからじゃない。


「とばっちり、なんて思わないで欲しい。きっとこれはチャンスなんだよ。今の自分より強く成れる、チャンスだよ。」
「……さっさと行けよ」
「え?」
「他の奴ら前行ったぞ」
「あ!」
「…助けてくれてサンキューな」
「え、あ、私も偉そうに色々ごめん!お互い頑張ろうね!じ、じゃ、私行くね!」


各々の個性で前を行く生徒たちの後を追う。思ったより出遅れてしまったけど、挽回してやる!



「へんな奴」
「あーゆー子もいるんだね、ヒーロー科に」



ピンチはチャンス
上を目指すのに、資格なんて必要無い


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