焦凍と同じ氏を名乗るようになって3ヶ月
私のお腹に命が宿って5ヶ月が過ぎた
お腹も目に見えて大きくなり、服を着ていても妊婦らしく見えてきた。
最近はつわりもピークを過ぎたようで、ようやく慣れてきた焦凍との新居の生活を満喫している。

流石にヒーロー活動は一時休業。いつかは復帰したいけど、前線というよりはサポート的な役に成れるといいなと思ってる。

挙式は子どもを産んで落ち着いてからにしよう、と持ちかけられて私は二つ返事した。
これからやるべき事が沢山ある、なんて幸せなことなんだろう


「あれ、動いた?」
「!」


なんとなくだけど、この頃お腹の子が動いているように感じる。
蹴っている、というよりはぐるぐるしてるというか…


「触っても大丈夫…か?」
「そんなに身構えなくも大丈夫だよ。多分触ってもまだわからないと思うよ?」


そう言ってもこわごわと手を伸ばしてくる焦凍。
お腹が大きくなるに連れてお腹をさする回数が増えてってる気がする。
まだまだぎこちないけれど、最初の戸惑いを含んだ顔と比べるとずいぶんと父親らしい顔になったものだ。


「焦凍、少しお話していい?」
「なんだ?」
「今日、お義父さんに会ったの」
「!…親父にか」


瞬時に焦凍の顔が強張る。
彼の父親との大きな確執は、私達がもっと若い頃に小さなものになった。
それでも彼らの不調和が完全に無くなったわけではない。
私が知っている中で、焦凍とお義父さんが最後に顔を合わせたのは私と籍を入れた次の日だ。
当然、私も今日までお義父さんとは会っていない。


「うん、私からお話がしたいって連絡したの」
「…なんで事前に俺に言わなかった」
「言おうと思ったよ、でもあなた言ったら反対するでしょう?」
「当然だ」


機嫌が悪くなったことを表すかのように眉間に皺を作る彼。
やっぱり親子ね。お義父さんも同じ顔してたわよ。


「お前とこいつは俺の家族だ。アイツの好きなようにはさせねえ」
「焦凍、聞いて」
「こいつをヒーローにはさせない!」
「…それは、この子が決めることよ?私達がこの子の未来を決めるべきじゃないわ」
「!…そうだな、そうだったな」


自分の放った言葉にかつての父親を見たのか、苦しそうに顔を歪める。
焦凍、もう悲しまないで、あなたは一人じゃないの


「この子、もしかしたら『お父さんみたいなヒーローになりたい』って言うかもしれないよ?…私はそう言ってくれたら嬉しいな。もちろん違う夢を持ってくれても構わない。素敵な友達を作って、好きな人と生きて、いつか家族を作って欲しい。…私達のように」
「ナマエ…」
「今日ね、同じことをお義父さんに言ったの。この子の生き方も、目指すものも、全てこの子に決めさせるつもりです。私達はこの子の背を支えても、何かを押し付けるようなことはしたくない」
「……ああ、」
「だから、お義父さんもヒーローとしてではなく、一人の祖父としてこの子を抱き上げてくださいって」
「っ、」
「焦凍、あなたがどう思うかは私には分らないけれど…私ね、家族は一人でも多い方がいいと思うの。この子を見守ってくれる人たちが一人でも多く居る世界にしてあげたい。」
「ナマエ、俺は…」


きっと、何もしなければ彼はこの子を父親に極力会わせない様にしたんだろう。
もしかしたら今でもそう思っているのかもしれない。
でも、でもね焦凍


「この子は、私達を親にしてくれた。父親と母親に。だから、お義父さんも…一人の人にしてあげましょう?」
「……」
「あの人も、ずっとヒーローとして生きてきた。きっとヒーロー以外の自分を知らないのよ。でも、この子が『おじいちゃん』って呼んでくれれば…何かが変わる気がするの。……私の勝手な願望かもしれないけど」


身勝手な事をしてしまったのかもしれない。
私なんかが踏み込んでいい領域ではないのかもしれない。
それでも、私はもうこの人の妻になった。家族になった。
家族の絆を大切にしたいと思うのは、そうおかしな事ではないと思う。


「この子の周りには、笑顔の人が大勢居て欲しい。そう思うのは親の身勝手かしら…」
「ナマエ、お前ずっと一人でそう考えてたのか」
「一人じゃ、ないわ…」


ゆっくりとお腹を擦る。何も聞こえないけれど、確かにここにある命

私の手を覆い、そのままお腹の膨らみを確かめる焦凍。
視線を合わせて、軽い口付けを一つ。そのまま頭を撫でられ抱きしめられる。
全身を包み込むように抱き寄せられ、体中で彼の体温を感じる。

彼の膝に乗ると私の肩口から顔を覗かせてくる。そんな行動が少し子供っぽくて、今度は私が彼の頭を撫でる。
後ろから手を伸ばす彼の手が、優しくお腹をさすり、微笑み一つこぼす


「親父は…何て言ってた」
「…ん、元から私達に干渉するつもりはなかったって。焦凍ももういい大人だからガキの一人ぐらい何とか育ててみろって」
「アイツ…どの口が言うんだ」
「ふふ、お義父さんも言ってたよ『俺が言うのも何だがな』って。あと…私にこの子を抱き上げて欲しいって言われるとは思わなかったって」
「…だろうな」
「私ってそんなに薄情にみえる?」
「そうじゃねえ。…それだけのことをアイツはしてきたからな」


ほんの少し寂しげに瞼を下ろす。
彼らの過去は消し去れない。これからもずっと

でも、乗り越えることは、出来る


「焦凍、」
「…わかってる。今は、まだ全部は無理だが…。そうだな、こいつが生まれてきたら変わるかも知れねえな」


全てを受け入れ許すことは、まだ出来ない。今は未だ。


「いいの、これからずっと一緒だもん。いきなり全部、だなんて言わないわ」
「…最後まで付き合ってくれるか?」

「当然よ、私はあなたの奥さんなんだから!」
「…ありがとうナマエ。 愛してる」


お腹に焦凍の大きな手の暖かさを感じながら、もう一度キスを交わす
幸せになりましょう、この子のために、私達のために…


「あ、動いた…かも?」
「!」
「お父さんの大きな手が好きなんですねぇー」
「!!」



轟焦凍の幸福2
包み込むように、愛を


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