ミョウジと爆豪が抱き合っているのを見た日
あの日からあの2人の関係が変化したのは明らかだ。

ミョウジはアイツを勝己と呼び
アイツはミョウジをナマエと呼ぶ

二人の様子を見たクラスメイトが二人の関係を問いただす


「なぁ!ミョウジと爆豪って…付き合ってんのか!?」
「あ、えっと…」
「煩え無能野郎。コイツに近寄んな」
「マジかよ!!よりにもよって爆豪かよ!ミョウジ…脅されたんか?」
「よしお前そこ動くな。三つ折にした後、爆破して捨ててやる」
「残虐非道!」


上鳴の行動で教室内が騒がしくなる
うるせえ、うるせえ…


「あら、轟さんどちらへ?もうすぐHRが始まりますわよ」
「気分が悪い」


八百万の問に碌に答えずに教室を出る
吐き気がする
頭が痛え
何も聞きたくねえ


人気の無い校舎裏に腰を下ろす
ここは、あの日あの二人がいた場所だ


「(何やってんだ…俺)」


あの二人を視界に入れたくなかった。
クラスメイトの冷やかしにですら苛立ちを感じた。


「(ガキくせえ)」


逃げ出した。あの場から、現実から
笑っちまう。この程度で逃げ出すような奴がトップヒーローを目指すだと?
好意を持った女を取られただけでこのザマだ。


「チクショウ」


何もかも上手くいかねえ
目頭に熱がこもる。咄嗟に顔を覆うがまだ泣き出すほどではないらしい。
それでもまた疼く、古傷が、体の奥が何かに侵食されたように苦しい


「(忘れてやる何もかも)」


彼女を想った事実も、それで負った傷も
今までだって色んな事を我慢してきた。自分の思い通りにならないことなんてザラだろ

時間が何とかしてくれる筈だ
今は全てを飲み下せねえだけだ
いずれ忘れる日が来る




「…轟くん?」
「!、ミョウジ…」


なんで、こんな時に来るんだ
冷え始めていた思考がまた混沌とざわめく

今、一番視界に入れたくなかったミョウジがここにいる
見たくねえ、聞きたくねえ


それなのに、決して溢れなかったものが突如として顔を出す


「と、轟くん!大丈夫?具合悪いって聞いて、私…」
「…ミョウジ」
「どこか痛いの?気持ち悪いなら保健室で横に……っ!」


視界が歪む
何時ぶりだ泣いたのなんて
コイツを見ただけでこれだ、忘れるだなんて、出来るはず、ねえだろ!


何も知らずに俺を探しに来たのが悪い
心配から俺に近づき肩に手を触れたのが悪い
俺をこんなにも惹きつけたコイツが、ナマエが…

愛おしい



「轟くん大丈夫?苦しいの?」
「…痛い、苦しい」
「ど、どうすればいい?誰か先生とか呼んできて保健室に…」
「いらねえ」
「!」


弱っている様に見える俺を気遣う、彼女の優しさを利用する
泣きだした俺に近づいたナマエを固く抱き締める
逃げ出さぬように


「ここに、いてくれ」
「と、轟くん、」
「何もいらない、そばに居てくれるだけでいい」
「どう、したの?何かあった?」


そうだ、逃さなけりゃいいんだ


「…聞いてくれるか?」
「うん、私で良ければ」


俺の中の何かが崩れる。
それは理性とか良心といった名のあるものではない
彼女を想い、ゆっくりと時間をかけて作り上げた純粋な何か
それを黒く染める
ナマエを想うが故に自らを汚す


「俺の出生の話になる…」
「……うん」


今まで生きてきた俺の半生を語る
いつかの緑谷にそうしたように
大抵のやつは驚き、その事実に不快感を覚える
それでも彼女なら受け入れる、そう確証していた


「っ、轟くん、辛かったね…」
「………」
「なにか、私に出来ることがあれば…」


彼女を、ナマエを繋ぎ止められるならば、過去の俺でさえ利用してやる


「たまにでいい、こうしてそばに居てくれ」
「…それだけでいいの?」
「ああ、充分だ」


世界中から後ろ指をさされようとも
ナマエが俺の世界から消えてしまうぐらいならば
白を黒に変えてでも…


例え彼女が他の男を想い、俺の想いに応えなくとも
俺を受け入れてくれればいい
他には何もいらない
俺の心を、身体を、その腕の中に閉まっていてくれれば


それだけでいい



救われぬ男の困惑
誰か俺を笑ってくれ


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