ほんの一瞬だったけど確かに目があった
爆豪くんの体温を感じながらも、彼から、轟くんから目が離せない

ねぇ、なぜそんなに苦しそうなの
どうしてこんなに胸が痛いの

もしかしたらこれは罰なのかもしれない

彼を想ってしまったことへの


爆豪くんが更に掻き抱く様に私を締め付ける
それによって轟くんが見えなくなる
この人の体温が暖かい
なのに、心が空洞になってしまったかのように虚しい

轟くんが立ち去る気配がする
なにも考えたくない


暫くすると爆豪くんがゆっくりと私を解放する
身体が離れて間に入る風が冷たすぎる


「俺は、アイツの代わりになんてなんねぇぞ」
「……ば、くごうくん?」
「お前は俺を選ぶ。ゼッテーにだ」


彼の放つ言葉が何も理解できない程、私は無垢な子供ではない
ただ、それを素直に受け入れるほど大人でもない


「爆豪くん、わたし…、」
「黙れ、今は何も聞きたくねえ。…忘れさせてやる、何もかも。考える時間なんざ用意してやらねえよ」


また彼の手が伸びてくる
払いのけることも出来る、それ程に彼らしくないゆっくりとした動きだった

私は試されている
受け入れるか、拒絶するか、考える時間は与えないと言われたのに、彼は私の意志を汲み取ろうとしている


「……いいか、お前は今から俺のモンだ」
「………」


差し伸ばされた手を払う勇気はなかった

違う
どうしようもなく痛む心が、蝕んでくる虚無が怖かった
これ以上一人で居たくなかった


「(最低だ)」


自分の身可愛さに、爆豪くんの気持ちを利用した
なんて汚い人間なんだ私は


「俺を利用したとか思ってんじゃねえぞ」
「え」
「俺が、お前の傷心を利用したんだ。でもな、後ろめたさなんざさらさらねぇぞ。俺は、俺のしたい様にする。ただそれだけだ」


今まで私は彼の事を勘違いしていたのかもしれない
この人も、梅雨ちゃんと同じように人の気持ちを汲み取れる優しい人なんだ
言葉がそうでなくとも、私の顔を撫ぜる手つきが、視線が、こそばゆい程に柔らかい



「…ありがとう」
「うるせえ、いい加減笑え」


堅い指に目元の雫を掬われる
荒々しくて不躾なのに暖かいその手は、爆豪という人をそのまま表している様

彼に言われて無理やり頬を上げる
上手く笑えてるハズない
それでも、それが今彼に返せる精一杯のことだった



「ひでぇ不細工面だな」
「ひどっ!」


ゆっくりと身体を包み込まれる
顔を彼の胸に押し付けられて
でも、さっきより確実に優しい手つきで
また彼の体温を感じる。その暖かさにほんの少し安堵する
今度は私も彼の服を掴み、細やかながらにその体温を受け入れる



困惑
胸の底にある鋭い痛みには見てみないフリをして


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