図書室で八百万と話していると隣の列から気配を感じた。
それだけならまだいい
雄英の施設である以上、他の生徒も利用するのは当然だ。
向こうがこちらの様子を伺っているのが気になったが、構わず会話を続けた

「………っ」

「!」

一瞬だった。俺たちの会話にかき消されそうではあったが、確かに耳にした
あれはミョウジの声だ
悲鳴にも似た声の後、逃げるようにその場を去っていた。
何だ、何があった?俺たちの様子を伺っていたのは確かだ。なのに何故いきなり…


「どうかなさいました?」
「いや…悪い、用事を思い出した」


嫌な予感がした
なんとなくだ、確証なんてねえ。
それなのにヤケに胸騒ぎがする。
急いでミョウジの後を追いかける。足は俺の方が早い、が、雄英は広い。一歩遅れて図書室を出た時には既にミョウジの姿はなく、為す術を失いかける。


「おい!爆豪どこ行くんだよ!!」
「!」


付近の階段から聞き覚えのある声。これは…切島か?


「あれ、轟どうした?」
「ミョウジを見なかったか?」
「お前もなんか用事あんのか?今さっきスゲー速さで走ってったとこ見かけてな…したら爆豪がいきなり追いかけ始めてよ。」
「どっちに行った!?」
「え、あっちだけど…ってオイ!」


切島の言葉を最後まで聞かずに走る。
さっきよりも胸騒ぎが酷え。嫌な予感しかしねえ。


「(なんとか、爆豪より先に…)」


図書室での様子から走って人のいるトコに行くとは思えねえ。恐らくは人気のない所に行ったはずだ。
俺ならどこへ行く?この時間、この付近で…


「ぅ…っ、」

「!」


気のせいかもしれない、それ程に小さい声だったが確かにミョウジの声だ。


「(また、泣いてんのか…?)」


あの日のミョウジの泣き出しそうな顔が脳裏をチラつく。
なんでだ、なんで泣くんだ…
急激に足が重くなる。どうする気だ。
何も考えずにここまで来たが…ミョウジが泣く原因が俺だとしたら…?何と言えばいい?


「(うぜぇ、まずは見つけてからだ)」


どうしようもなくミョウジの顔が見たい。
例えそれが泣き顔であろうとも、原因が何であろうとも。近くにいてえ



「ちょ、……て…!」
「……せぇ、………たら………るよ」


近くから話し声が聞こえてくる。
あれはミョウジと爆豪の声だ。
意識した途端に猛烈な苛立ちが襲ってくる。クソ、先越されたか…


「っ!」


声の元へ足を運ぶと
爆豪とミョウジが抱き合っていた。



なんだこれ
なんなんだ、これは…



思わぬ光景に体の機能が全て止まる
呼吸の仕方でさえ忘れちまったかのような。それでも鼓動だけは煩えぐらいに響く。

それは一瞬、だが異常なほどに長く感じた


「!ぁ、」


ミョウジと目があう、刹那に身体の何処かに痛みが走る。
わかんねぇ、どうしちまったんだ


「………」


ミョウジの名前を口にすることすら出来なかった
俺に気付いていたのか、爆豪が更にミョウジを掻き抱く。
アイツの背で更に彼女の姿が見えなくなる。

吐き気がする
目の前が暗い
この場にいたくねえ


来た道を引き返す
何も見たくねえ
誰の顔も見たくねえ
何も聞きたくねえ


「クソ、クソ……何なんだ」

ジクジクと顔の古傷が痛む
息が苦しい
体の何処かが痛む

堪らず人のいない廊下に座り込む


「ちくしょう、…………ミョウジ」

不意に漏らしてしまった名が俺に追い打ちを掛ける



なんでだ、なんで、俺じゃないんだ

なんであの場でミョウジといるのが俺じゃないんだ!



「かあさん…」



俺を拒絶した母の姿を思い出す
ミョウジでさえ、俺を受け入れてくれないのか?


「いてぇ」


古い記憶が、傷が、…胸が痛え



轟焦凍の困惑
誰もが俺の想いを受け入れない


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