「うおおお…何ごとだぁ!!!?」
「何この人だかり…」

放課後、いつも通りにお茶子ちゃん達と帰宅しようと教室のドアを開けたらえらいことになっていた。
出入口付近の廊下には色んなクラスの生徒の人だかり。教室を覗きこむようにしているものもいれば、携帯で写真を撮っている者、何かの記事を見ながら近くの生徒と話している人……
あまりの多さに普段静かな廊下がウソのように騒がしい。なんなの、握手会でもあるの?


「出れねーじゃん!何しに来たんだよ」
「敵情視察だろザコ。敵の襲撃を耐えぬいた連中だもんな。体育祭の前に見ときてえんだろ」


峰田くんの軽い愚痴に対してのこの仕打…クラスメイトにザコって、爆豪くんブレないなぁ
緑谷くんも「あれがニュートラルなの」ってフォロー入れてる辺り普段から苦労してそうだ。
それにしたって、いくら敵と交戦したからってこれは注目し過ぎじゃない?
敵がどんな奴らだったのか知ってるわけでもないのに、メディアが大々的に取り上げた所為か、どこかしらで話が膨れ上がってるんじゃないかと疑ってしまう。


「意味ねえからどけモブ共」
「ちょ、爆豪くん!ブレなすぎぃ!!」
「知らない人のこととりあえずモブって言うのやめなよ!!」


流石の緑谷くんも爆豪くんの言動に狼狽えている。
飯田くんの言うように彼は自分以外をモブ扱いし過ぎだろう!?そのうち「ザクとは違う」とか言い出しそうでハラハラするよ!


「どんなもんかと見に来たが、ずいぶんと偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
「ああ!?」
「ええ!?(爆豪くん責任取って否定してよね!)」


人混みをかき分けて出てきた背の高い人は普通科のようで…。
簡単に言うと忠告と宣戦布告をしに来たようだった。
体育祭の成績によってはヒーロー科への編入、更にはヒーロー科からの除籍もあり得るのだとか。
なんか凄いデジャブ。相澤先生が好きそうな内容じゃないか


「調子のってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつーー宣戦布告しに来たつもり」
「(この人も大胆不敵だな!!こんなこと言うぐらいだから凄い個性なんだろうな…)」


なるべく目を付けられないようにしようと顔を背けた先で、また一人声を荒げる人がいた。

「隣のB組のモンだけどよぅ!!」
「(うわーまたなんか来た!)」
「敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!!本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」


そう言うと彼はさっさとクラスに戻ってしまった。
いや、B組なのはわかったけど、君誰なの…
あれ、もしかしてここにいる人たち全員敵対してるんじゃ!?
なんとなく最初の好機の目線から変わってきてる気がする
明らかにそういう空気にしたのは…


「爆豪くん、どう責任とってくれるの…」
「……」
「待てコラどうしてくれんだ!おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」

切島くんの言うとおり、爆豪くんの煽りが効き過ぎちゃってこっちが調子づいてる雰囲気になりつつある。
やめてくれ、ただでさえ体育祭にはノリ気じゃないのに…


「関係ねえよ」
「はぁーーー!?」
「上に上がりゃ関係ねえ」
「!」

「く……!!シンプルで男らしいじゃねえか」
「上か…一理ある」
「言うね」
「騙されんな!無駄に敵増やしただけだぞ!」


爆豪くんの言葉にみな各々の解釈をする。
そうか、彼はこういう人なのか…
出入口の人混みを掻き分けて歩いて行く爆豪くんを追う


「爆豪くん!」
「…んだよ。まだ文句あんのか」
「ううん、なんて言うか勇ましいなって思って」
「ハァ?」

何言ってんだコイツって顔に出してこっちを振り返る。
ツリ目な彼は基本怖い顔をしているけど、見慣れればそれほど怖くはなくなってきた。(いや、睨まれると怖いけど)


「私さ、ちょっと体育祭自信なくて。周りの評価とか聞こえてくるじゃない、それが嫌でさ」
「………」
「でも爆豪くんの言った通り、上に行けばそんなの気にする必要ないよね!」
「…弱気か」
「え?」
「あん時みてえに、人の気も知らねえでガンガン前出りゃいいじゃねーか。そもそも下がってろっつっても大人しくしてねえお前が人の評価気にするとか笑わせんな」

どうやら敵と戦ってる時のことらしい。わ、私そんなにしゃしゃり出てたかな…

「ご、ごめん?」
「うっせ謝んな。…てめえがやりたいようにやりゃいいんだ。その後の事なんか考えてる暇あったら上になんて行けねえんだよ」
「!…うん、そうだね。ありがとう爆豪くん、私頑張るね」
「オメーが頑張っても底が知れるけどな」
「えぇ!?言ってることが違う!」





体育祭まで2週間。それまで出来るだけのことはやっておきたい。
上に登れるように、落ちる事のないように。みんなと一緒に歩んでいけるように。



『ナマエは逃げることしか出来ない』



私自身が強くなるように。

「強くなる、ならなきゃ」

もう逃げたくないから








そして、体育祭当日


「皆 準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」
「コスチューム着たかったなー」
「公平を期す為着用不可なんだよ」
「私は逆に体操服で良かったよ」
「いいじゃん!ミョウジのコスチュームでさ、お色気作戦とか出来たかもよ!?」
「その作戦は私じゃなくて八百万さんのが適任でしょ」
「そんな低俗な行為は好ましくありませんわ。ヒーローを目指すものなら正々堂々と戦わなければ」


学校側に用意された控え室で開会前のひと時を過ごす。
みんな思ってたより緊張はしてないようだ(一部を除いて)


「轟くん、どうしたの?」
「ああ、ちょっとな」


隣に座っていた轟くんが立ち上がって何処かへ向かおうとしていた。
なんとなく気になって後を目で追う。目的は意外にも近くにあったのか彼は直ぐに足を止めた。

「(緑谷くん?…なにかあったのかな)」


「緑谷」
「轟くん……なに?」
「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」
「へ!?うっうん…」


いきなり何言い出すの彼は!?
事の内容によっては止めに入ったほうがいいかもしれない、そう思ったのは私だけでは無いらしく、彼らの会話が聞こえた人の中で何人かが反応を示した。


「おまえオールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねえが…おまえには勝つぞ」

「おお!?クラス最強が宣戦布告!?」
「……」


驚いた。轟くんがそんなことも言うとは思わなかった。
でも、ケンカを売ってるっていうよりは…自分に言い聞かせてるような、そんな感じも見て取れた。
緑谷くんも自分の評価を客観的に見つつも、この体育祭に本気で取り組む熱意が見えた。


「皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く!」
「………おお」
「……っ」
「緑谷くん…」


トップは1人だけしかなれない
ここにいる皆も、B組も、他の科の子達も…いったいどれだけの人が狙っているんだろう
そんな中、爆豪くんでも轟くんでもなく、緑谷くんが一番最初にトップを狙う発言をした。
普段目立つことをしない彼が…

只の体育祭ではない、彼にはもっと他の決意があるのかもしれない


「轟くん」
「なんだ」

席に戻ってきた彼に話しかける
宣戦布告後とは思えないほどに冷静な轟くんが私を見る


「私も、負けないよ」
「!……ああ、そうだな」


何のプレッシャーにもならない宣戦布告をこっそりと伝える。
ここにいる人皆、追う者でもあり追われる者でもあるんだ


「A組のみなさん、そろそろ入場の準備を」



それぞれの決起
さあ顔を上げて前を見て


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