「皆ーーー!!朝のHRが始まる 席につけーーー!!」
「ついてるよ、ついてねーのおめーだけだ」

臨時休校明け、朝から飯田くんが元気に委員長している。
普段の光景だけど、なんだか久しぶりの様な感じがする。
そういえば、相澤先生は大丈夫なんだろうか。この間の刑事さんの話だと重傷って言ってたけど、暫くは臨時の先生になるのかな?


「お早う」
「相澤先生復帰早えええ!!!!プロすぎる!!」
「先生無事だったのですね!!」
「無事言うんかなぁアレ……」
「なんかミイラみたいになってる…」

包帯ぐるぐる巻きの状態で教室に入ってきた先生に皆ざわめく。
ただでさえ小汚…いや、無精なのに余計に怪しくなってるよ。どっからどう見ても重傷者なのになんて無茶を…
先生も案外負けず嫌い?プロヒーローって皆こんな感じなのかな。
なんにせよ、先生の(ギリ)動いてる姿を見て安心した。


「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
「!?」

先生の言葉にドキッとする。
まさかまた戦闘になるの!?


「雄英体育祭が迫ってる!」
「クソ学校っぽいの来たあああ!!」
「先生!紛らわしい言い方しないでください!!」

本当にもう!一瞬ヒヤッとした!
それにしても敵に侵入されて大騒ぎになったばかりだというのにイベント開催って…
雄英って案外呑気なの?危機管理おかしいの?って思ったけど、逆にこの状況で開催することで雄英のセキュリティーの高さを示す目論見らしい。
うーん、確かに全国が注目するビッグイベントだものね。そこで危機管理体制をアピールすれば今回の襲撃に対する対応はバッチリですって示せるってことか。
なんかちゃっかりと言うか……まぁ流石に全国のトップヒーローが集まる時に敵襲撃なんてことはないとは思うけど。


「何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねえ」
「いやそこは中止しよう?」
「峰田くん…雄英体育祭見たことないの!?」


そう、雄英体育祭は全国のトップヒーローがスカウト目的に集まるイベントでもある。
つまり私達ヒーロー志望の生徒にとっては最大の見せ場。自分を売り込むチャンスってワケだ。
卒業後、いきなりプロデビューする人もいるみたいだけど、大多数はプロ事務所のサイドキック入りから始まる。
そこから先プロデビューするかサイドキック止まりかはその人の実力次第だ。
当然、どのヒーロー事務所に入るかで民衆の認知度も変わってくる。
有名な所に入るには、今回のイベントで目立って目立って目立ちまくってプロたちに見込まれなければならない。
簡単に言ってしまえば今から就職活動をしているようなものだ。後ろ盾のない学生達は自分たちを上手くアピールしないとトップヒーローへの道は開けない。


「(やっぱり厳しい世界だな)」

ここにいる皆も当然ヒーロー志望。
同じ夢を目指す仲間であると同時に、ライバルでもあるんだ。


「時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回…計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」





「あんなことはあったけど…なんだかんだテンション上がるなオイ!!活躍して目立ちゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」

昼休み、皆思い思いに体育祭への意気込みを語る。
皆ノリノリすぎて怖いって!


「ナマエちゃん、デクくん、飯田くん…頑張ろうね体育祭」
「どうしたのお茶子ちゃん!?怖いよ!!?」
「顔がアレだよ麗日さん!!?」


普段は穏やかでフワフワしてるお茶子ちゃんが…!なんかどえらい迫力になってる!
キャラ!キャラは大切にしようよお茶子ちゃん!!


「ミョウジくん、お昼行こう」
「あ、飯田くん…ちょっと待ってもらっていい?」
「ああ構わないぞ!」


お茶子ちゃんとデクくんとポーズをとったままの飯田くんにいきなり話しかけられてハッっとする。


「轟くん、お昼どうする?」
「ああ、別に今日でも構わねえ」
「じゃ、今日行こっか。ちょっと待ってて!」


轟くんにお礼に学食をご馳走するって約束を思い出した。
昨日の今日で早速って感じだけど、このまま忘れちゃうよりいいよね!


「飯田くん、ごめん今日ちょっとお昼別になる」
「了解した!麗日くんたちにも伝えておこう!」
「うん、よろしくね」

飯田くんに断りをいれて再び轟くんの所に戻る。
みんなで一緒に…でも良かったけど、轟くんはなんとなくご飯は静かに食べたい人な感じがするから2人でいくことにした。


「いいのか、飯田達」
「うん、ちゃんと言ってきたから大丈夫!」
「なら、行くか」


未だに教室内で盛り上がっているお茶子ちゃん達よりも先に学食へ向かう。
お茶子ちゃんいやに体育祭に盛り上がってるけど何かあるのかな。


「轟くんも体育祭頑張っちゃう感じ?」
「…まぁ、それなりにはな」
「ふぅーん」
「ミョウジはノリ気じゃねえのか」
「ん?んー、楽しみではあるけどね…」


正直、ノリ気ではない。精一杯頑張りたいとは思うけど。


「私の個性ってルール違反になりやすいからさ、あんまり活躍できなそうだなぁって…」
「…使い様だろ」
「うん、その通りなんですけども…うーん」

その後も私があまりスッキリした返事をしなかったこともあり、体育祭の話から離れていった。
お昼時で混んでいる学食の席を二人分取り、麺類コーナーに並ぶ。どうせなら私も同じものを頼もう。


「ーー、超絶パワーも似ているし、オールマイトに気に入られているのかもな」
「あ、飯田くんとお茶子ちゃんだ」
「………」

ふと後ろの方から二人の声が聞こえてきた。会話はあまり聞こえなかったけど、多分緑谷くんの話かな?
緑谷くん一緒にいないところを見ると、多分オールマイトに連れて行かれたとかかな?
USJの時もオールマイト先生が緑谷くんに話しかけてたもんな。「また救けられた」とか…
前から面識があったのかな?


「ミョウジ…、聞いてもいいか」
「ん?なに?」

盛り蕎麦を二人分購入し、席に座る時に轟くんが話しかけてきた。なんだろう


「どうしてあの時飛び出した?緑谷と一緒に」
「あの時……?あ、USJの?」

敵との対戦の最後、緑谷くんと私は敵の前に飛び出した。オールマイト先生を救けようとして。結果、満足に戦うことは出来なかったけど。


「オールマイトはトップヒーローだ。その実力も目の前で見た筈だ。…なのに何故飛び出した?」


確かに、はたから見れば無謀な行動だったと思う。オールマイト先生に任せておけば全て解決していたかもしれない。
けど…


「ん、なんでだろうね。…離れちゃダメだって思ったの。オールマイト先生を見て、今この人を1人にしちゃダメだって。」
「…頼りなく見えたのか?」
「そうじゃ、ない…けど……上手く説明できないけど、なんか儚く見えて」
「儚い?」
「うん、全然そんなことないってわかってたんだけど、どうしてもあの場から離れられなくて……気がついたら緑谷くん飛び出してたし、その、彼を見てたらいてもたってもいられなくて。…バカなことしたって自分でも思ってる」
「………」
「もしかしたら、緑谷くんには真っ当な理由があったのかも。私はただ、彼の勇気に触発されただけかな?結局なにも出来なかったんだけどね!」
「んなことねえだろ」
「あはは、次はもっと考えて行動するよ」


今考えても無茶な行動だったとは思う。後悔はしてない…反省は、しなきゃいけないと思う
そういえば緑谷くんはどうだったんだろう?私と同じ理由なのかな。今度聞いてみよう。


「…緑谷が」
「え?」

暫く思案していた様だった轟くんが口を開いた。

「緑谷が飛び出したから、お前も行ったのか?」
「うーん、そうだね。留まったのはその場の違和感からだけど、飛んだのは緑谷くんがいたからかな?とにかく一緒に行かなきゃ!!って感じだった。」
「そうか…」
「どうかしたの?」
「いや…」

また暫く黙りこむ轟くん。なんだろう、なにか引っかかるのかな?


「ミョウジ」
「ん?なに?」
「体育祭、全力でいくぞ」
「え?あ、うん」

いきなりの会話変化に一瞬ついていけなかった。うーん彼の考えていることが全く読めない…
当の本人は蕎麦を食べることに集中し始めたし。
…まあいいか、私も食べよう。時間は有限だ!



意気込みは語られず
みな抱える思いはそれぞれで


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