「ナマエ…少し話いいか?」
「どうして轟くんがいるの。峰田は?…資料整理は?」
「峰田は悪くねえ。…俺が仕組んだ」
「………」


峰田に言われて資料整理の手伝いに来たら、いきなり閉じ込められて轟くん登場だ。
最近ずっと避けてきたからこんな面倒くさいことしたんだろうけど。何も峰田まで巻き込まなくてもいいのに。


「ナマエ…」
「近づかないで。話があるならそこでして」

思った以上に冷たい声になってしまった。
でも、私は未だ許していない。今までのこと、あの時の事。

私の意見を珍しく聞き入れたのか、轟くんはドア付近のまま動こうとしない。

違う、こんな酷い態度取りたいんじゃない。
私も、私も轟くんと話したかった。

でもあの時知ったんだ。轟くんが私に対する気持ちが恋愛感情じゃないって。
きっと、慣れ合いとか、思春期特有の異性への関心とかその程度だったんだ。
それならそれでいいじゃない。程々にしてねって許してあげれば良かったのに。

許せなかった。
裏切られた気がしたんだ。

その時私も気づいた。轟くんのこと只のクラスメイトとして見ていなかったんだって。
だから「わからない」って言われた時 あんなに悔しくて、苦しくて…悲しかったんだ。

浮かれすぎたんだね、私。
他の子よりもほんの少しだけ距離が近いかも、なんて。特別なのかもって。
そんなことなかった。轟くんは私じゃなくても、良かったんだ。

きっとこれから話すことは、今までの謝罪と私との関係のリセットだ。
叩いたりして、面倒くさいことしちゃったもんね。
轟くんだって、そんな子の側に居たくないよね。

別に付き合ってたわけでも好き合ってたわけでもない。
只のクラスメイトの男女としての正しい形に戻るだけ。
それだけ。

そして、きっとその関係は今後覆らない。
挨拶して、用のあるとき話して。時々談笑する。…それだけ。それ以上もそれ以下もない。


怖い。そんなの考えただけでも心が死んでしまいそうだった。
だから彼を避けた。彼からの終焉を聞きたくなくて。

話したくなかった。
でも、話したかった。
……だってやっぱり彼が、轟くんが

好きだから





「…泣くほどに俺が嫌いか」
「……ちがうよ」
「なら、なんで泣くんだ」
「………」


これは只の未練だよ。
今までが出来過ぎてて、楽しすぎて、こんな風に失くなってしまうなんて思ってなかったから。
こんなことなら、あんなこと聞かなきゃよかった。私が好きかなんて、バカなこと聞くんじゃなかった。


「…ごめんねっ、轟くん、ごめんね」
「……なんのことだ」
「ぅっ、…ごめんね、私のせいで轟くんに嫌な思いさせた」
「…?ナマエ、まて、何の事だ」


謝っても、元に戻らないって理解してる。でも、止まらないの
止められないの!
お願い神様、戻れるなら、あの時に戻して。私もうそれ以上望まないから…
彼のこと好きにならないから、なっても、絶対に押しつぶすから、だから、だから
轟くんの側にいさせて…


「ごめんなさい、ごめんなさい」
「やめろ。やめろ!ナマエ!俺の話を…!」
「いや!聞きたくない!!聞きたくないの!!」
「っ!…ナマエ」


「ごめ、ごめんなさい……とどろきくん、ごめんね、……好きになってごめんなさい」







ナマエが最初は冷たい態度を取ることは予想できた。
あんなことがあった手前当然だ。だからなるべく彼女を刺激しないように、ドア付近から動かずそっとナマエの様子を伺った。
カーテンで締め切られ、窓のないドアさえも閉めてしまえば暗闇が辺りを覆う。
ナマエと峰田をここで待っていた分、その暗闇には慣れつつ合った。細部はともかく、ナマエの表情ぐらいは判別できるほど。
不安げに俯いている彼女に掛ける言葉を探していると、不意に彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。
その瞬間。俺の中で用意されていた言葉も算段も全て消え去った。


「…泣くほどに俺が嫌いか」
「……ちがうよ」
「なら、なんで泣くんだ」
「………」


苦しすぎる沈黙。ナマエから流れるもの一つ一つが俺を拒絶しているように感じる。
先程から暗闇にいるというのに、余計に目の前が暗くなった気さえする。


「…ごめんねっ、轟くん、ごめんね」
「……なんのことだ」
「ぅっ、…ごめんね、私のせいで轟くんに嫌な思いさせた」
「…?ナマエ、まて、何の事だ」


俺に嫌な思い?ナマエから俺に?
全く検討もつかない事を言われていよいよ俺も混乱してくる。なんだ、何が起きてるんだ


「ごめんなさい、ごめんなさい」
「やめろ。やめろ!ナマエ!俺の話を…!」
「いや!聞きたくない!!聞きたくないの!!」
「っ!…ナマエ」


俺の、俺の言葉さえ聞いてもらえないのか


「ごめ、ごめんなさい……とどろきくん、ごめんね、……好きになってごめんなさい」


ナマエの言葉を拾った瞬間、頭で考えるより先に身体が動いていた。
震えている肩を抱き寄せ、胸の内に収める。

身体の差ですっぽりと俺の中に収まるコイツの全てが特別だ。
指を滑る髪も、たまにしか見せないうなじも、壊れそうなほど華奢なのに堪んねえほどやわらけえ身体も、脚も、なにもかも全部、俺にとってはかけがえのない特別な存在だ。
出来れば誰にも触らせたくねえ、見せたくねえ。俺だけの、俺だけのナマエにしてえ。



「と、とどろき、く…」
「黙ってろ」
「っぁ、ん」

余計なことを言う前に口を塞ぐ。
話せばまた混乱しそうな気がする。
それに、もう暫くはナマエを堪能したい。遠慮せずに。


「ぁっ、あ、んふ」
「……ハァ」
「ンン」

逃げないように頭を固定すれば、息が続かないのか何度か口を離そうとする。
放すものかと口内まで蹂躙する。外もナカも全部俺で埋もれればいい。何もかも俺のものになっちまえ。


「ん、ん…」

また涙が溢れる。
だがそれは、拒絶のものではないんだろう?


「はっあ、はぁ…はぁ…」
「…ナマエ」
「ン…」

彼女の唇を舐め、そのまま瞳にも吸い付く。涙まで甘く感じるのはコイツだからだろうな。


「ん、ん」
「ハァ、ナマエ、ナマエ」

まだ足りぬ、と口付けを繰り返す。
ナマエに触れる度に俺の中の何かが満たされると同時に、底知れぬ欲求感が顔を出す。


「……ナマエ」
「はぁ、ぁ、とどろきくん」
「誰よりもお前が特別だ。何よりもお前が欲しい。」
「!」
「これが俺の答えだ」
「…うん、ありがとう。嬉しい」

溶けきったみてえなナマエの顔、やべえ


「言葉より先に手を出しちゃう辺り、轟くんらしいね」
「…言うじゃねえか」
「わっ!」

痛みを感じさせねえ程度にナマエをその場に押し倒す。
希望としてはもうちっと明るいといいんだがな。


「だっ!だめだよ!」
「ナニがだ?」
「こ、こんなとこで!それに早すぎるよ!!」
「大丈夫だ。ゴムは用意してある」
「なんで!!用意周到すぎでしょこの変態!!」
「晴れて思いが通じあったんだ、何の問題もないだろ?」
「あるわバカ!!」

暴れても意味ねえよ。男の力に敵うと思ってんのか?


「轟ーー!!!!お前まさか襲ってんのか!!?ふざけんなよせめて覗かせろ!!!」

「っ!峰田!そこにいたの!!?」
「…チッ」
「(舌打ち!?)…轟くん」

ナマエが俺を睨み上げる。全然怖くねえってか可愛いだけだぞお前。

「轟ーーーー!!お前ミョウジに言うからな!お前がどれだけアホなのか!皆にも言いふらしてやる!!!」
「…っるせえな」

今回は我慢してやる。今回は。次は止めてやらねえからな。
とりあえず峰田は……まぁ世話になったからこっちも見逃してやる。


立ち上がり、ドアの氷結を溶かすために軽い熱を伝導させる。
鍵弁償するの面倒臭えな。治す前にもう1回ぐらいここ使っとくか。


「とど……焦凍くん」
「!」
「へへ……名前いい、よね?」

前言撤回。今使う。



「ぎゃーー!!助けて峰田くん!!」
「…ミョウジやめろ!オイラの名前出すな!ややこしくなるだろ!!」
「峰田は帰れ」
「ヒデェ!轟の薄情者おおおおお!!!!」



轟焦凍のあなたスイッチ
接触良好。全精力ナマエに向かっております。


prev / *

△mainへ戻る


△TOPへ戻る