プロヒーローである先生たちがこれだけ大勢集まってくれたってことは、敵はこの施設にだけ襲ってきたようだ。
良かった…おかげで助かった…


「いっ…」
「あ、大丈夫緑谷くん!?今先生たち呼んでくるね…」

急いで先生たちの元に飛んでいこうとした時、変な感じがした、目の前が暗くなるような…


「あっ…ミョウジさん!」
「っ!」

先生たちのいるゲートまで飛ぼうとしたのに、実際にはほとんど移動できてなかった。
どうして…?個性を使いすぎたせい?
さっき敵から逃げようとして上手く飛べなかったのも、これのせいなの?


「うっ…」

とりあえず先生のもとへと思って走ろうとしたけど、酷い眩暈がしてその場で蹲ってしまった。
どうしよう…なんか、力が入らない…


「ミョウジ!!緑谷ぁ!!大丈夫か!?」
「切島くん…!待っ…」


切島くんが近づいた途端に私と緑谷くんの間に壁が競り上がった。
…なに?


「生徒の安否を確認したいからゲート前に集まってくれ。ケガ人の方はこちらで対処するよ、悪いがそちらの女子生徒はお任せしていいかな?」
「そりゃそうだ!ラジャっす!!ミョウジ!だいじょうぶ…か…」

「大丈夫か?立てねえか」
「あ、ごめ、ん…力入らなくて…」
「俺に掴まってろ。ゲートまで連れてってやる」
「ごめ、ありがとう…轟くん」

「(轟いつの間に…って俺またいいとこなしかよ!)」



緑谷くんは無事先生方が何とかしてくれるようで良かった。
私はと言うと、未だに力が上手く入らないため、轟くんに支えられながらゲートを目指している。


「ほんと、ごめんね」
「別にこんくらい何でもねえよ」


前に次は役に立ってやるって言ったばかりなのに、結局足引っぱちゃって…情けない。
今回は個性の使い過ぎの危険性を身を持って知った。
イザという時に自由に飛べないようであれば、私のいる価値なんてない。


「(悔しい…な)」
「…変なこと考えんなよ」
「え?」
「お前…」

「オイ」


轟くんが何か言おうとした時に、不意に後ろから声をかけられた。この声は


「…爆豪くん?」
「コレ、オメーのだろ」

そう言って乱雑に渡されたのは、確かに私の体操着。
倒壊ゾーンに置いてきたのに…わざわざ取りに行ってくれたの?


「わざわざありがとう、爆豪くん」
「っせ。これでチャラだからな」
「え?」
「次からは余計なことすんなよ」


もしかして倒壊ゾーンで私が戦ったことかな。それとも広場まで飛ばしたこと?


「爆豪の奴な。けっこーミョウジの事気にして戦ってたんだぜ!いざミョウジが前に出るとすっげえ怖え顔してたけどな」
「るっせえ!!爆破すんぞクソ髪やろう!!!」


そうだったんだ…その時の怖い顔見なくてよかった…


「ありがとう、爆豪くん」
「るっせ。さっさとソイツ連れてけや」
「……ああ」



「ナマエぢゃああん!!ナマエちゃぁああん!!!」

遠くからお茶子ちゃんの声が聞こえる。そういえばゲート付近にいた気もするな。無事みたいで良かった。

「お茶子ちゃん無事でよかっ」
「ナマエちゃん大丈夫だったあ!!?うち上から見ててハラハラしたよぉお!!デクくんと飛んでくし敵怖いし!!」
「ごっごめんね」


心配かけてしまったのか、お茶子ちゃんがもの凄い勢いで抱きついてきた。
うん、嬉しいんだけど、今はちょっと厳しいかな…


「おぢゃこぢゃ…くるし…」
「おい、離してやれ……」
「あっ!ごめんねナマエちゃん!もう大丈夫だよ!うちが支えるから!!」
「………頼んだ」


轟くんがそっとお茶子ちゃんに私を預ける。
なんか言い途中だった気がするけど…いいのかな?



「16…17…18……両脚重傷の彼を除いて………ほぼ全員無事か」

皆色々な武勇伝で盛り上がっている。良かった爆豪くんの言っていた通り皆何とか出来たみたいだ。
ただ、相澤先生と13号先生達は生徒を守るために重傷を負ったらしい。
相澤先生の眼に何かしらの後遺症って…先生には致命傷なんじゃ……相澤先生…
オールマイト先生はリカバリーガールの治療で大丈夫らしいけど、結構な重傷だったようにも見える。


「あの!緑谷くん…足を折った生徒は…?」
「そうだ、デクくん…」
「緑谷くんは…!?」
「緑…ああ、彼も保健室で間に合うそうだ。私も保健室の方に用がある。三茶!後 頼んだぞ」
「了解」

「イヌじゃないんだ…」
「ネコの刑事さんだね」


その後は三茶さんの指示で来た時と同じようにバスで学校まで帰ることになった。
バスに乗りこむ前に、校長先生が私達に勇気付けるように言った。


「皆、それぞれ怖い思いをしただろう。勇気を持って戦った者、知恵を絞って状況を打破した者、…何も出来なかった者もいたかもしれない。しかし恥じることはない。君たちはヒーローである為の大前提の”生き残る”ことを成し遂げた。こんなにも早く敵と出会った1年生は君たちが始めてだ。私は君たちに期待せずに入られないよ。1-A、このクラスは強いヒーローになる!皆、今日あった恐怖を、経験を、決して忘れないで欲しい!明日の自分たちのためにも!以上!!各自バスに乗って学校へ向かってください。」


明日の自分のために…か。
今日私がした行動は正しかったのだろうか?
バスに乗って一息ついて窓の外を眺める。まだ乗り込んでいない生徒がいるようだ。


「…隣、いいか?」
「うん…どうぞ」


行きの時とは逆の状態になってしまった。
私の隣の空いている席に轟くんが腰を下ろす。彼も少し疲れているようだ。


「行きとは逆になったね」
「そうだな。…体調はどうだ?」
「うん、少し良くなったみたい。ごめんね、迷惑かけて」
「…迷惑じゃねぇって」

あんまり言うと怒られそうだから、ほどほどにしておこう。

「うん、じゃあ、ありがとうね」
「ああ。…切島が色々言ってたぞ」
「ん?」
「結構活躍したみてえじゃねーか」

恐らく倒壊ゾーンでのことを皆に話したのだろう。そこまで活躍した覚えはないんだけど…


「そうかな、でも結果個性の使いすぎで最後グダグダになっちゃたし。もっと考えないと…」
「…それがわかっただけいいんじゃねーのか」
「…うん、そうだね。また一個課題が増えちゃった」

終わったことをウジウジ考えるのは良くないね。これもヒーローへの道と受け止めてポジティブに行かなきゃ。


「また…がんばらなきゃ…ね」

体力を使いすぎたのか、緊張感が切れたのか、どっと眠気が襲ってくる。
エンジンをかけたバスの揺れが心地いい。


「お前の戦ってるトコ、俺も見たかった」
「…ん?」
「次は俺のトコに飛べよ」
「………ん」
「……お前の前向きなとこ、嫌いじゃねえ」
「…………」
「ミョウジ?」


また、私を呼ぶ声が聞こえる。これで何度目だろう。
もしかして全部轟くんだったのかな…
でも…今は…なにも考えられない……



一時の休息
心地好いまどろみの中


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