「(ううううう、せ、せまい…)」
「ミョウジ、あんま動くな」

今日の演習は『本気かくれんぼ』
ヒーローたるもの時には完全に気配を消して身を潜めなければならない!とは絶対に普段目立ってるオールマイト先生談。
気配を消す訓練ってもっと何か違う方法ないのかな…

ルールはくじで決めた鬼が隠れている生徒を見つけ出す。見つかった生徒は鬼と一緒に他の生徒を見つける。
時間が過ぎるに従って鬼が増える方式だ。最初は動き回りながら逃げてもいいけど、後半は下手に動くと鬼と鉢合わせする可能性が高い。なるべく早く隠れる場所を見つけないと…


「やばいそろそろ隠れないと…」

今日の演習場所は市街地内の学校。部屋数は多いものの、長い廊下や大きめの階段など隠れにくい場所も多い。移動は慎重に…素早く…

耳を澄ましながら他の生徒の気配を探って移動する。なるほど適度に緊張感もあってなかなかいい訓練かもしれない。

廊下の突き当り、カーテンが付いている教室が目に留まる。中に人の気配は…なさそう?

「理科実験室…?」

音を立てずにそっと中に入る。扉を閉めるのも忘れずに!
中には大きめの机がいくつか並んでるのとビーカーなど実験用具が棚に並んでいる。

「(演習場なのに小物にこだわるなぁ。)」

ここで隠れるなら…机の下?それともいったんベランダに出てまた移動する?
次の行動をどうしようか悩んでいると、廊下の方から足音が聞こえてくる。

「(やばい!どっかに隠れないと!)」

机の下…は安直すぎ!ベランダは…って窓開かない!?やばいやばい!くるくる!!
あ!ロッカー!

教室の後ろにいくらか並んでいるロッカーの一つを開ける、と

「っ!うわっ!とどろきくっんぐ!!」
「黙れ…鬼か?」

なんという確率!!まさかロッカーの中に轟くんがいるなんて!なんてシュールな光景!!
ってか手ぇ!騒いだのは悪かったけど、手ぇデカすぎ!息できない!!

「んーんー…」

自分は鬼ではないと必死に首を横に振る。

「なら他あたれ…」
「いやでもすぐそこに誰か来てっ」
「チッ」

轟くんも気づいたのか、扉の方に視線を向けると今度は腕を引っ張られた。二の腕が痛い!

「(えええええなにこれ)」
「黙ってろよ」

どう考えても1人がやっとのスペースに無理やり2人で入ってる。なんだこれ、どこの恋愛ゲームだコレ
漫画やゲームではよくあるトキメキの光景だけどさ

「(ううううう、せ、せまい…)」
「ミョウジ、あんま動くな」

苦しい。こんな状況下でときめくわけねぇ!息もやっとだよ!!
そろそろと頭を横に動かして息をするスペースを作る。これは…長時間は無理だ

ガラッ

「!」

息も絶え絶えにしていると、よりにもよって廊下にいた人が中に入ってきた。やめてよこれ以上のスリルいらねぇよ!

「(あ、轟くんも焦ってる…?)」

身体から鼓動が伝わってきて何か変な感覚。
背、大きいな。そういえばいつもつけてる氷みたいなの今ないな。邪魔だから溶かしたのかな。
足、長くない?ずるい。節々ってか身体全部硬い。男の子って皆こんな感じなのかな、筋肉なの骨なの?

すぐそこに鬼がいるかもしれないのに呑気な事考えてる私と違って、轟くんは外の様子をずっと伺っている。苦しい思いさせてごめんね。

「(かくれんぼ中にプチ満員電車体験するとは…)」

ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ

うわぁ、ロッカー開けまくってる…これはヤバイ…
1つ2つと開けていき、とうとう私達が入っているロッカーの番に…

ガチャッ

「っ!」
「お前ら何してんの?」
「…峰田、お前は鬼か?」
「オイラ?オイラは鬼じゃねーぞ」

うそぉん。じゃあなんでロッカー漁ってんの!?紛らわしいことしないでよ!

「ミョウジが実験室入ってくの見えたから。あばよくば一緒に隠れてお触り…」
「出てけ!」

私のせいかよ!なにいつから付いてきてたの?

「つーかお前ら卑猥だぞ!演習中にナニしてんだ!」
「隠れてんの!見ればわかるでしょ!」

やめてよ!苦しいんだから喋らせないでよ!

「えー…ずるい。オイラも入れて」
「やめて。定員オーバーだから」
「ミョウジ、股開けよ。オイラそこ入るから」
「轟くんコイツ凍らすか燃やすか出来ない?」
「やってもいいが、見つかるぞ」

っく!残念!というか、私出ればいいんだ。んで違う場所探して隠れよう。

「待って、私1回出る」
「出る!?出ちゃうのかミョウジ!?我慢できないのかぁ!?」
「轟くんやっぱりコイツやっちゃって」
「…お前ら黙れ」

くだらない話してる時に轟くんが廊下の方に視線を向けた。まさか…

「誰か…来る?」
「気配は消してるみたいだが…」
「やばいじゃん!早く入れてくれよぉ!」

今度は気配を上手く消してる分、いつ実験室に入ってくるかわからない。

「やめてっせまいっくるしぃい」
「ハァハァミョウジエロい」
「峰田やめろ。出てけ」
「轟だけズリぃよ!」
「っ!」

早く出てくれ!今にも部屋の扉が飽きそうで怖いよ!!
三人でおしくらまんじゅう並に押し合ってると、轟くんがものすごい勢いでロッカーの扉を閉めにかかった。

「うっ(痛い痛い!)」
「ケツもなかなか」
「……黙ってろ」

ギリッギリで閉まったけど、今にも開きそう…やっぱ定員オーバーすぎんよ!エレベーターならブザー鳴りまくるよ!
苦しくてなんか暑くなってき…いや!寒い!

「なに…して?」
「扉の内側凍らせた」
「モゴモゴモゴ」

もう峰田なんて知らない。これからはくん付もしない。そんでまた梅雨ちゃんにチクってやる!!
峰田が入ったせいでさっきより無理な体勢になって身体が苦しい…あとなんかに引っかかって背中が痛い。

「いっつ…」
「?」
「フックかなんかに引っ掛けたみたい」
「背中か?」

こんなことなら上に体操服着てくればよかった。と後悔していると背中に暖かい感触とピリッと痛みが走った。

「血は出てねえみてえだな」
「(おおおお?)ど、どうも」

どうやら隙間を縫って背中を擦ってくれてるみたいだ。いや、ありがたいんだけど、一歩間違えたらセクハラだよ。轟くんなら訴えられなそうだけど。
ミミズ腫れになってしまったのか、スッと背中をなぞられる。

「っ」

くすぐったいからヤメテと無言の訴えを示すために彼の服をぐっと掴む。と同時にまた扉が開く気配がした。誰か入ってきた。今度は複数人だ。

「(気配でなにか探ってる…今度は鬼っぽい)」
「…」
「!」

私が外の気配を伺っていると、あろうことか背中にあった手がチューブトップの中に入ってきた。なに、なに!?

「(なにしてんの!)」
「……」

さっきよりも強めに彼の服を引っ張るが、何の反応もないのが逆に怖い。やばいなんか熱くなってきた
暗いし狭くて頭を動かせないから轟くんの表情が伺えない。

「(どうしよう、よろしくない状況!)」
「…………」

どうしようか悩んでいると、ふと頭が重くなる。轟くんが私の髪に頭をうずめている。あれ、いつの間にもう一本の腕が背中に…

「……ナマエ
「っ!」

耳元で彼の息が漏れた。声に出してなくても分かる。今、私の名前を呼んだ
彼の手がホットパンツギリギリの腰の位置に移動する、あ、やばい

「んぁ!」
「ン゛ーーーー!!ン゛ーーーー!!」

私の口から変な声が漏れたと思ったら、おしりのあたりから変なうめき声が聞こえてきた。
あ…峰田、忘れてた

「ロッカーに誰か居るね!」
「ココか!」

すぐ後ろに気配が迫ってきてロッカーの扉を無理やり開けようとするが、内側から凍らせた扉は固く、扉が歪みそうな鈍い音が中に響く。

「あっれ、これ開かねーぞ!?」
「切島の硬化で壊しちゃえば?」
「バッカお前、中に人がいたら怪我するだろう!」
「でも時間ないよーーー!ヤバイ!!はやく!!」

この声は、上鳴くんと三奈ちゃんと切島くん…
時間…後何分?扉持つか…な…

思考が止まる、顔を無理やり上げられて 熱い息

はっん、あ、ン

動けない。熱い
唇ってこんなに熱くて柔らかいんだ

「ン゛ーーーー!!ン゛ーーーー!!」
「なんか中からうめき声聞こえるー!はやく開けよう!!」
「この声…峰田か?個性でくっつけてるのか!」
「おーい!観念しろー!」

こんなにすぐ側で声がしてるのに、すごく遠くに聞こえるみたい

ねぇ、この後どうするつもりなの?
なんて言うつもりなの?


タイムアップまであと3分


轟焦凍のスイッチ2
今度は熱なんてない


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