初めての演習で自分の今後の課題が見えてきた。
とりあえず、当面の間は自分の個性に慣れること。今までも使ってこなかったワケじゃないけど、法律で規制されている以上無闇矢鱈に使用してこなかった。
寝坊して遅刻しそうになった時、緊急性のある忘れ物をした時、気分が悪くて満員電車に乗りたくない時ぐらい…

「ロクな事に使ってないな…」

いやむしろコレが普通でしょ!爆豪くんとか轟くんみたいに個性に慣れまくってるのがおかしいんだ!
といってもこれからはそんなこと言ってられない。ヒーローを目指す以上、個性を上手く使っていく必要があるってかそれが重要だ。

「自分以外を上手く飛ばせるようになる事、テレポート先の座標の補助」

飛んだ先に何があるのか、少しでも情報を整理する癖を付けないと。奇襲なんて受けたら避ける自信ないし。

「てかコレ使えばよかったんだ…」

コスチュームのサポート会社から届いた装備。私の「要望」通りの腕時計型端末。
私を支点とした半径10km以内の地形や障害物、ある程度の大きさの生体反応と座標をスキャンしてくれる。
スキャンするにはある程度のタイムラグがあるけれど、コレほどの高機能を使わなかった私ってホント無能だわ…
次からスキャンするクセ付けとかないと…
あと捕捉機能でチューブトップに仕込んであるウェアラブルデバイスと連動して心拍数や体温、呼吸数を測ってくれる。…必要、なのか?

「座標の補助はコスチュームで当分補うとして、問題は自分以外のテレポートか…」

いきなり人を飛ばすわけにはいかないから、部屋の中にあるものを飛ばす練習をしよう。数をこなせば感覚もつかめるはず!

「よし!それじゃ、この辞書を…リビングに!」

飛べ!




「ナマエ!なにやってんの!!辞書がお風呂場に落ちてきたわよ!!!!」
「…ごめんなさい」

が、がんばるぞ…






「あ、ナマエちゃんおはよー!」
「お茶子ちゃん、おはよ」
「今朝も取材陣すごかったねー。私インタビューされちゃったよ。」
「えぇ、なんか大変だったね」
「?ナマエちゃん、追いかけられなかったの?」
「ああ、いや、まぁ…」

実は今朝から訓練を兼ねてテレポート登校をしている。朝に余裕出来てラッキーとか思ってません。そんなまさか…ねぇ?

「ナマエちゃんやる気まんまんだ!ウチもがんばらんと!」
「でも、なんか後ろめたいから皆には内緒ね?」
「まかしとけー!」




「急で悪いが今日は君らに…学級委員を決めてもらう」

朝のHP中、昨日の演習のお小言をもらった後のこと。唐突に学校っぽいこときて逆にびっくりしたわ。

「ハイハイハイハイハイ!」
「委員長!!やりたいですソレ俺!!」
「ウチもやりたいス」
「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!!」
「ボクの為にあるヤツ☆」
「リーダー!!やるやるー!!」
「やらせろ!」

皆さん元気で大変よろしい。これがヒーロー科か…まぁ私もやりたくないわけじゃないけど、ここまで自分推しは出来ないなぁ。このままだとずっと決まらなそうだけど…

「静粛にしたまえ!!」
「!」
「ん?」
「”多”をけん引する重大な仕事だぞ…!『やりたい者』がやれるモノではないだろう!!これは投票で決めるべき議案!!!」

おお、流石飯田くん!まとめ役がよく似合う。いやでも、君一番手がそびえ立ってるよ!やりたいんだね君も!!

その後少しごたついたものの、無事、委員長:緑谷くん、副委員長:八百万さんに決まった。
私は、結局自分の名前も誰かの名前も書けずに白紙のままで出した。というか、誰の名前を書こうか考えあぐねて結果書けなかった。だって適任者多すぎなんだもんこのクラス。誰が委員長になってもいいクラスになるよ。絶対。


お昼、美味しすぎるご飯を食べながら飯田家の秘密?を知る。兄に憧れてヒーローを志したと語る飯田くんは今まで見たこともないくらい優しい笑顔だった。お兄ちゃんのこと、大好きなんだね。

「なんか初めて笑ったかもね飯田くん」
「え!?そうだったか!?笑うぞ俺は!!」
「ふふ、これからはいっぱい笑い顔見れるね」
「当然だ!君たちも思う存分笑うといい!」

憧れの、ヒーロー、か…



ウウーーーーー

「えっなに?」
「警報!?」

<セキュリティ3が突破されました>
<生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください>

その場の空気が一気に変わった。焦り、悲鳴、怒号…
いったい何が起きたっていうの?
周りの生徒が脇目もふらずに非常口へ目指している。それは大きな流れになり私達4人は簡単に飲まれてしまった。

「っ!お茶子ちゃん!緑谷くん!飯田くん!」
「っっミョウジさん!!」
「あ!緑谷くん!大丈夫!?」

運良く近くに倒れ(挟まれ)てた緑谷くんと合流出来たけど

「痛っ!」
「うわああああ!」

生徒が混乱しすぎて暴走しかけている。このままここにいるといつか怪我しちゃう!
まだやったことないけど、試してみるしかない!

「緑谷くん!手!手ェ貸して!!」
「てぇぇえ!?」

必死の思いで腕を出してくれた緑谷くんの手を掴む。離さない、絶対に!!

「緑谷くん!飛ぶよ!!」
「ふぇっ!?と、飛ぶっ!?」

瞬間、景色が変わる。




「………えっ!?あれっ!?ここさっきの席!?」
「うん、良かった上手く飛べたみたい」

今の今まで人混みの中にいたのに、ミョウジさんに手を伸ばしたらここにいた。コレって…

「ミョウジさんの個性?僕も飛んだの?」
「そう、私と一緒に飛んだんだよ。やったことなかったけど、私と触れてる人も一緒に飛べるみたい」

上手くいってよかったよ。と少し疲れた感じに安堵している。ってかこれここここここここいびと繋ぎッ!

「ミョウジさんっ!手ぇ!!」
「あ、ごめん、興奮してそのままだった」

ちっちゃくて柔らかい手だな…って何言ってんだ僕は!

「凄いよ!他の人も飛ばせるようになったんだね!こんな短期間に!!」
「触れてる人限定だけどね。昨日色々考えてさ。そういえば服とか鞄とかは私と一緒に飛んできてるなーなんでかなーって思ってさ。もしかして私に触れてるものも一緒に飛ばせるのかなって考えて…いきなり人で実践できるとは思わなかったけど。」

少し照れたようにはにかむミョウジさんは少し自信がついた感じだった。本当に凄い。


「大丈ーーーー夫!!」

人混みの奥の方から飯田くん君の声が聴こえる。どうやら生徒を落ち着かせて誘導しているみたいだ。
あんなに大勢の生徒をまとめられるなんて…凄いな

「飯田くん達も無事みたいだね。もう少し落ち着いたら迎えに行こうか」
「…うん」




「委員長は…やっぱり飯田くんが良いと…思います!」

緑谷くんの推薦で最終的に飯田くんが委員長に決定した。うん、それもいいと思う。他の子も納得しているようだし。

「委員長の指名ならば仕方あるまい!!」
「任せたぜ非常口!!」
「非常口飯田!!しっかりやれよー!!」

さて、私は何の委員会に入ろうかなー。


一歩前進?
いえいえこれからです


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