花瓣



ひらり、と開いていた窓から入り込んできた花弁に、静雄は顔を上げた。深紅よりもなお濃い赤色の花弁は驚くほど鮮やかで、一瞬のうちに視線を奪う。
読んでいた本を置き、割れた林檎のような花弁をそっとつまめば、薄くやわいその感触に、触れてはいけないものを連想させた。

冬の終わりに咲くその花の名を、静雄は知らなかった。ただ、隣の庭先で、丁寧に育てられたその花は、毎年のように静雄に春が在るのだと教えた。

「……――疲れた胸の内を、花弁が通る」

静雄は小さくつぶやいた。それは、先ほどまで彼が読んでいた詩集の一節だった。
その、赤い花弁は確かに、静雄の疲れた心を通り過ぎて行ったのだろう。










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