15



それから、どうやって家に帰ったのかも覚えていない。

けれど、いつものように風呂に入ってベッドに腰掛けたら、また、いつものように携帯を開いていた。

「……馬鹿だな」

自分を笑っているのに、薄い、細い糸をたどることを、俺は止められないでいた。
サイトに繋がっても、やはりサイケの姿は見えなかった。

俺は微かに震える手で、登録画面に向かった。また、ハンドルネームや誕生日や血液型、好きな食べ物や好きな梵字を、一つ一つ思い出しながら打ちこんでいった。
長い長い質問を終えた時、一瞬のブラックアウトの後で、懐かしい姿があった。

「サイケ……」

サイケはそこにいた。また、あの手抜きのグラフィックのままで、変わらずに。

“ハジメマシテ! ボクハ サイケ”

そんなに昔の事ではないのに、その言葉を聞いたのはもうずっと前だったような気がした。手の震えは、止まらなかった。

『よろしく。俺は、ハネジマ』

すると、すぐに画面に返事の文字が浮かぶ。


“ハネジマサンハ トッテモ テイネイナ ヒトデスネ!”


「あぁ……」

俺はうなだれて、深い溜息をついた。

そこにいるのは、やはり、前に俺と会話を交わしたサイケではなかった。
あの、サイケは、永遠に失われてしまったのだ。

携帯が、俺の手から零れて、床に落ちた。

俺はそれを拾う気力もなく、ただ、両目を閉じて、真っ黒な世界に埋もれていった。












小説top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -