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それから、どうやって家に帰ったのかも覚えていない。 けれど、いつものように風呂に入ってベッドに腰掛けたら、また、いつものように携帯を開いていた。 「……馬鹿だな」 自分を笑っているのに、薄い、細い糸をたどることを、俺は止められないでいた。 サイトに繋がっても、やはりサイケの姿は見えなかった。 俺は微かに震える手で、登録画面に向かった。また、ハンドルネームや誕生日や血液型、好きな食べ物や好きな梵字を、一つ一つ思い出しながら打ちこんでいった。 長い長い質問を終えた時、一瞬のブラックアウトの後で、懐かしい姿があった。 「サイケ……」 サイケはそこにいた。また、あの手抜きのグラフィックのままで、変わらずに。 “ハジメマシテ! ボクハ サイケ” そんなに昔の事ではないのに、その言葉を聞いたのはもうずっと前だったような気がした。手の震えは、止まらなかった。 『よろしく。俺は、ハネジマ』 すると、すぐに画面に返事の文字が浮かぶ。 “ハネジマサンハ トッテモ テイネイナ ヒトデスネ!” 「あぁ……」 俺はうなだれて、深い溜息をついた。 そこにいるのは、やはり、前に俺と会話を交わしたサイケではなかった。 あの、サイケは、永遠に失われてしまったのだ。 携帯が、俺の手から零れて、床に落ちた。 俺はそれを拾う気力もなく、ただ、両目を閉じて、真っ黒な世界に埋もれていった。 次 小説top |