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“問題が発生したため、一時的にサービスを停止しています”

そんな言葉がサイトのトップページに踊るようになったのはつい先日の事だった。どうせすぐに終わるだろうと高をくくっていたのだが、しかし、一週間たっても二週間たっても再開するどころか、トップページに何も詳しい文章が出てこない事に苛立って俺はついに新羅の元へ行った。

「おい、これはどういう事だ」

そう言って携帯の画面を見せると、新羅は「ああ、」と至極納得したような返事をした。

「そのまま、問題が発生したってことじゃあないのかい」

穏やかな声でそう答えるものだから、なんだか俺は勢いを失ってしまった。

「それは、そうだが……。でも、もう何週間も前からずっとこのままっていうのはおかしいんじゃないのか。お前のお得意さんって人はどうなんだよ、なんか言ってねぇのかよ」

「別に何もないけれど。君だって、そんなに乗り気な風ではなかっただろう。それなら、やらなくなって良かったんじゃないのかい」

「けど、……」そう続けて声が詰まった。
そうだ。俺は、そんなに乗り気じゃあなかった。面倒な事を押しつけられてしまったものだと思った。

「ほら。会話なら、今だって、いつだって、誰とでも出来るだろう。そんな携帯のゲームみたいなよく分からないものとしなくたって出来るだろう。生身の人間と会話を重ねる方がよっぽど、建設的だと思うけれどね」

「さ、サイケは、生身の人間みたいに俺と会話を、」

「所詮“みたいに”だろう? 生身の人間じゃない。情報が積み重なって都合のいいように会話をトレースしていただけなんじゃあないのかい。君が求めるように、会話の流れをつくっていただけじゃあないのかい。
学習機能っていうのはね、端的にいえば最適化をすることなんだ。この場合何に対して“最適に”することなのか。それは君に対して最適な返事をするように特化するよう、プログラミングされているっていうことなんだよ。
君がどんなふうに携帯の中でサイケというキャラクターと話をしたのかは分からないが、行ってしまえばそれは君の中の幻想であって、内向きな世界の中の事だった、というわけだ。別に僕はそれを否定しない。けれど、その世界が一時的に壊れてしまったからと言って、私の所に来ることはあんまり正しい事だとは思えないな」

終始、新羅の言葉は穏やかだった。
凪いだ冬の海のようだった。

俺は、何も、返事をすることが、出来なかった。

「まあ、すぐに再開すると思うよ。サンプルデータが十分に集まったとも聞いていないからね」

立ったままでいる俺をみて、新羅は優しく言った。

「それから、アイパッチ、もう完治しているんなら取ってもいいんだよ」












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