※臨也が子供を引き取りに来た設定



まるでぼろ切れだと臨也は思った。
着ている服が汚れ、擦り切れている訳ではない。大量に作られたであろうありふれた柄のオレンジのTシャツに、ベージュのこれもまた見慣れた半ズボンを穿いていた。どこにでも居そうではあるが、不潔ではない。
しかし、Tシャツから飛び出した枝のように細い腕には、端が茶色く変色した包帯が乱雑に巻き付けられており、それさえも何度も巻き付けたのか赤黒い血が洗われる事なくこびりついていた。鼻の頭にも取れかかった絆創膏が貼られ、頬には白く真新しいガーゼが顔を覆うようにくっついていた。足にもいくつもの大きな絆創膏が張り付けられている。
お世辞にも綺麗と表現出来ないその様子に臨也は眉を顰めた。もう少し、まともに怪我の手当ぐらい出来ないのだろうか。


そしてそれから視線を上げ少年の顔を見て、臨也は目を見開いた。
怪我の跡よりも、見た者に印象を深く刻み付ける部位を子供は持っていた。

目だ。
黒々とした底の見えない深淵のような瞳にまるで獣のような鋭さをもって、臨也を睨み殺そうとでもするかのようにぎらぎらと輝かせていた。そんな輝きを、臨也は今まで見たことが無かった。それほどまでに洗練されて混じり気の無い拒絶で作られた光だった。
こんな、10歳にもならない子供がする目ではない、そう臨也は思った。それこそ、野生の狼や虎と対峙しているかのようだ。
しかし、そんな風に思いながらも臨也は少年から目を逸らすことが出来なかった。逸らした途端、傷だらけの腕を持って自分を殺しにくる、そんなはっきりとした気配がした。
そしてそれだけではないのだった。どうしても目を引き付けて離さない、そんな底知れぬ孤独や寂寥が嫌悪に彩られた虹彩の奥深く、瞳孔から滲みだしてそれがどうしようもなく臨也の興味を惹いた。

なんて面白い!

こんな本能だけで生きていると主張するかのような人間を、臨也は好きではない。むしろ、嫌っている方だった。それこそ、この名も知らぬ少年のように初めか臨也の本性を嗅ぎ取ってその接触を拒むようなものなど。
しかしこの子供はまだ幼かった。未熟な心を自分に懐かせる、そんな事が出来たらきっと他の、臨也にすぐに懐くのであろう子供を引き取るよりもさらに面白くそして愉快に違いない。野生で生きてきた獣を、鎖と鞭でもって服従させるのは自分の嗜虐心を満たすのに、調度良い。

ニヤリと自分の顔が歪んだ事が臨也は分かった。
それは酷く意地の悪い笑みでこの傷を体中につけた子供に対する愛情や慈しみや同情といった、そんな優しさなど微塵も感じさせることは無い笑みだった。

「君を引き取らせて貰うよ」

ああ、きっとこれから面白くなるに違いない。
そんな予感に臨也は体が震えた。









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