その黒猫は死んでしまった



あいつが死んだのは、ほんの一週間前の話だ。

なぜ死んだのか。俺は知ることがなかったし、そしてきっとこれからもその理由を知るものは、俺の前に現れることがないだろう。

興味がないわけではない。少なからず、日々の生活に彩りを与えてくれていた。一緒にいる時は、本当に楽しかった。恐る恐る抱き締めれば甘えるように肩に顔を擦りつけて、唇の端を悪戯のように舐めることもあったりして。そんな小さな思い出が積み重なって、あいつの存在は俺の中で揺るがないものに変わっていった。

ただこうして今日、再びあいつの墓参りなんて似合わないことをわざわざしているのは、死んだ理由を聞きに来たわけではない。他に、聞きたいことがあったからだった。
俺はゆっくりと紫煙を吐いた。灰色の幕が空にかかる。

「……なぁ、なんでお前は俺の家の前で死んだんだ」

だって、お前は絶対に、俺の目の前で死んでくれることなど、ありえないと思っていた。それがお前の生き方なのだと俺は信じていたし、願ったことがないわけではないけれども、それでも、期待してはいけないのだと、そう思っていたのに。
答えの見えない問いに、墓石は何も返事をすることはない。
あまりにもささやかな甘い日々は終わった。

玄関の前で動かない体に涙をこぼした。死んでしまったあいつは、あまりにも小さくて弱くて、生きていたころには気がつかなかったけれど、本当に、とても、綺麗で。





「……もう一回、俺の手から煮干しを食べて、にゃあと鳴いてくれることは、もう、無いんだな。にゃん助……」


野良猫で飼っていたわけではない。最初の出会いはにゃん助が気まぐれのように俺の足に纏わりついてきてくれたことだ。にゃあ、とのんきそうに鳴いていたな。それが嬉しくて俺は次の日から煮干しを用意するようになった。

「お前ほどのいい猫は、いなかったぜ……」

その言葉をにゃん助が聞くことは、もう、無い。美しい黒い毛並を、俺に撫でさせることもなく、金色の瞳で俺を見ることもない。

けれども、こうして返事をしない墓石に声をかけ続けるのは、きっとあいつとの思い出を色褪せさせたくないからなのだろう。










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